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ゾロ誕2015☆リクエスト小話 (4つ)
※ゾロ誕2015を記念して、Twitterでリクエストを募集させてもらいました。お話はそれぞれ独立して、4つあります。
アヒルのくちばし [海賊]
リクエスト:
誕生日にお風呂のあひるおもちゃをあげて、いい歳なんだから毎日風呂入れよ~っていじわるするサンジと、なんだかんだしてサンジを風呂に連行するゾロ
目にも鮮やかな魚介が踊り、真っ赤な肉からは湯気が立ちのぼる。
賑やかな歌声は星の光に彩られ、少し冷たくなった外気を押しのける。
は……と小さく吐き出した息はほんのりと熱く、ふわりと揺れて波に溶けた。
「寝ねぇのか、主役くん」
キッチンの扉をそっと開ければこちらを見ようともせず声がかかる。小さく笑った口の端からは零れた白煙がゆらりとのぼった。
最後まで起きていたのはコックだった。
踊るように飯を配り、歌いながら皿を集める。酔いつぶれたウソップの背中に毛布をかけ、食べかけの肉をシンクへと運ぶ。手伝いを申し出たチョッパーの言葉を、のらりくらりとかわしていたのを見たのはいつだったか。
ゾロの誕生日などというのはただの口実で、みな宴がしたくてたまらなかった。
離れていたのはほんの1週間と少しだというのに、もうずいぶん長いあいだ会っていないような心持ちだった。
それほど、毎日一緒にいたのだ。
あたりまえのように隣にいた存在が、ふといなくなる心細さ。
それを知っている奴らだからこそ、離れることがやたらと心臓に響くのだ。
ようやくサンジの料理が食べられると泣いて喜ぶ船長に、笑いかけるナミもロビンもほんの少し泣いていた。
「俺がいねぇあいだに、大剣豪にでもなったかよ」
金の髪がさらりと揺れて白い横顔を柔らかに隠す。
コックは相変わらずこちらを見ようともせず上機嫌に皿を洗っている。じゃあじゃあと流れる水の音に夜の波がそっと重なる。
ゾロはそれを黙って見つめ、キッチンの扉を小さく閉めた。
――こいつなら、心配ねぇ。
そう思うようになるまでには、永い月日が必要だった。
誰の強さも信じず、歩き続けた剣の道。
まっすぐ目の前に伸びているのは、己の信じた「強さ」だけ。
それはゾロを純粋に強くし、そして勝ち続ける力を身につけさせた。
このまま頂点を追い続け、いずれは誰よりも「強く」なると信じていた。
「お前、ロロノア・ゾロだろ」
煙草を風に流しながら金髪の男が話しかける。
ゾロは眉間にしわを寄せて男の言葉の意味を探った。
あの瞬間から変わったことといえば、コックの強さではなくゾロの「弱さ」だろう。
――身に付けるのでなく、手放すことが必要だったのだ、俺には。
ゾロはゆっくりと足を進めながらチラリと窓の外を見遣った。
あの日と同じ海の音が耳の奥にこだまする。
空から落ちる一億の星が真実のように輝いている。
「ほらよ」
ひょいっと放られた小さな箱をゾロは思わず両手で受け取った。
真っ赤なリボンがはらりと落ちてキッチンの床を鮮やかに彩る。
箱は『カタリ』と軽い音を立ててゾロの両手におさまった。
「……なんだ」
「誕生日だろ」
キュ、と蛇口をひねる音が響いてキッチンがしん、と声をひそめる。
ゾロがごそごそと箱を開けると、なかから小さなおもちゃが顔をだした。
黄色く塗られた生き物に、不釣合いなほど鮮やかなオレンジのくちばし。
――……アヒル?
「お前、剣豪になるなら風呂ぐれぇ毎日入れよ、な」
「あ?てめぇなに言……」
文句を言おうと振り返った、視線の先でコックが笑った。
振り返ったコックの顔は金糸に隠れてうまく見えない。
ゾロは言いかけた言葉を飲み込んで目の前のコックに手を伸ばす。
――これは。
「……期待すんぞ、クソコック」
「っは、勝手にしろよ、クソマリモ」
さらりとかき分けた額にキスをしてゾロがそっと腕を引く。
自分より少しだけ低い体温が心臓のリズムを伝えてくる。
背景にせまる一億の星。耳鳴りのような遠い波音。
夜は静かにふたりを包み、舟を揺らし、風に溶けて朝を隠していく。
(ゾロ誕 1)