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世界迷作劇場 1

おおきなかぶ

 

むかしむかしあるところに、ルフィという名の少年がおりました。ルフィはたいへんな食いしん坊で、まいにちまいにち、お肉をさんきろ、野菜をごきろ、食べていました。あまりにまいにちお腹が減りますので、いちにちじゅう、ご飯のことしか考えられません。ルフィには絶対に叶えたい大きな夢があったので、はてどうしたものかと、首をかしげて困っておりました。

そんなある日の朝のことです。ぼんやりと夢から覚めたルフィがいきなり、「そうだ!いいこと思いついた!自分で作ればいいんだな!」と、布団から飛び起きました。そしていちもくさんに市場へと走ると、手に入れた種を、畑にぱらぱらと蒔きはじめました。

すると、どうでしょう。ぐんぐん、ぐんぐん。みるみるうちに大きく大きく育ったかぶは、つぎのひの朝にはその巨大な体を、畑にどかんと横たえておりました。大きな大きなかぶはいかにも瑞々しそうで、ルフィのお腹をたんまりと満たしてくれそうでしたし、つるりと光る白い肌からは、甘くておいしそうな香りが漂っておりました。

 

力自慢のルフィは、さっそくかぶを抜こうと、長い長い葉を引っぱりました。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

ところがかぶは、抜けません。

 

そこへ、緑色の頭をした男が通りかかりました。黒いバンダナを頭にかぶり、腹巻きを巻いた彼の瞳は、まるでとおい未来を見据えるかのように、ぎらりと鋭く光っています。ルフィが彼を見つけると、腰にさした3本の剣が、妖しく鳴いた気がしました。

「おい。ちょっとこれ、一緒に引っ張ってくれねぇか。」

ルフィが声をかけると、さも緑頭は面倒くさそうに、こちらを振り向きました。ところがこの男、そこはかとなく漂っている強靭な雰囲気からは想像もできないほど、頬はこけ、首には筋が浮いています。ぎゅうと握り締めたこぶしからは、ぽたりぽたりと、真っ赤な汗が流れ落ちていました。

「俺は、腹が減ってる。・・・悪ぃが、てめぇを助けてやれるほど、力が残ってねぇ。」

「そうか。だったら。」

ルフィは一切の迷いもなく、おにぎりを取り出しました。いつも胸のポケットにしまっている、大切な大切なおにぎりです。

「いいのか?」

「あぁ。おまえ、辛そうだ。どういうわけだか知らねぇが、これ喰って元気出せ。」

「・・・ありがとよ。」

むしゃむしゃといっきにおにぎりを平らげた緑色の男は、どうやら「しょうきんかせぎ」のようでした。見たところ剣の腕前は相当のようでしたし、体も心もとても強そうです。これからの冒険に、こいつがいるといいなぁと、ルフィは胸を躍らせました。

「ゾロ。おまえ、俺の仲間になれ。」

「俺の夢は、世界いちの大剣豪だ。・・・悪くねぇ。ついてくぜ、船長。」

 

こうしてゾロが加わって、ふたりはかぶを引っぱりました。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

それでもかぶは、抜けません。

 

続いて通りかかったのは、オレンジ色の髪の毛をした女の子でした。彼女はどうやら「こうかいし」をやっているようでした。ちっとも地図の読めないふたりにとっては、たいへん貴重な存在です。ルフィは迷わず、仲間にすることに決めました。女の子はどういうわけだか、「手を組むわ。」と言い放ちましたが、ルフィにとっては、同盟も、友達も、同じようなものだったので、別段かまうことはしませんでした。

 

ルフィをゾロが引っ張って、ゾロを女の子が引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

それでもかぶは、抜けません。

 

次に声をかけたのは、長い鼻の男でした。

「俺は、ウソップ海賊団の船長様だ!こんなかぶ、俺様ひとりで抜いてやるぜ!」

「すごいや、キャプテン!」

子どもたちに囲まれながら堂々と胸を張るその姿は、とてもとても強そうには見えませんでしたが、どうやら、悪いヤツではなさそうです。

そうして長鼻は、子どもたちを引き連れながら一緒にかぶを引っぱっておりましたが、どういうわけだかときおり、姿を消してしまいます。その怠惰な様子にしびれを切らし、こっそりあとをつけたルフィたちは、病気の女の子を笑わせようと必死に駆けずり回る、長鼻の姿を見つけました。

「あいつ、仲間にする。」

わるい陰謀から病気の女の子を守りきったルフィたちは、長鼻を仲間に誘いました。

「・・・おれを、仲間に、入れてぐれェ!!!」

ぐちゃぐちゃと涙を流しながら仲間たちに懇願をよこした長鼻は今度はいくぶんか真剣に、列に加わることとなりました。

 

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロを女の子が引っぱって、女の子を長鼻が引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

それでもかぶは、抜けません。

 

ところがここで、女の子がいなくなってしまいました。かわいい笑顔の彼女は、実は「どろぼう」で、さんにんはあっさりと、大切な大切なお昼ごはんのおにぎりを、みんな奪われてしまったのです。

列から消えた女の子のことを、長鼻はさんざんに責めましたが、ルフィは彼女を信じていました。

 

太陽はぐんぐん高くなります。ぎらぎらと照りつける日差しが、さんにんの体力を奪っていきます。こうもお腹が減っては力が出ない、とへとへとになった頃、目の前を金髪の男が通りかかりました。

「おいおまえ、いい匂いすんな。仲間になれ。」

ぐるりと振り返った金髪の男は、眉毛がぐるぐるとおもしろく巻いていて、ぷかりと煙草をふかしておりました。

「やなこった。俺は、このまちでコックになるんだ。」

コックと聞いて、ますます嬉しくなったルフィは、しつこく男を誘いました。

「いいじゃねぇか、俺たち腹が減ってんだよー。」

「飯は作ってやる。ただし、仲間にはならねぇ。俺は、クソ料理長に“貸し”があんだ。」

あいつといえば、とんだコキ使い野郎で・・・

そういって頑なに拒否する男はしかし、なんだかんだと世話焼きで、ルフィたちのことをきちんと丁寧にもてなします。口が悪くて隠れているけれど、心根はとても優しいヤツだと、ルフィはすぐに見抜きました。

「なぁおまえ、オールブルーって、知ってるか?」

心から楽しそうに笑う男の姿を、料理長は物陰から見つめていました。大きな夢を持ちながら、過去に縛られ身動きが取れなくなっていたこの男の本心を、誰よりも深く理解していたのは、他でもないこの料理長だったのです。

「おまえのスープはまずくて飲めん。さっさとここから出て行け!」

いきなり突きつけられた暴言に、一瞬たじろいだコックはしかし、安い三文芝居に気付いたあとで静かに、レストランを離れることに決めました。料理長の、そして料理仲間たちの、優しさがキリキリと身にしみていきます。

「サンジ。・・・風邪、ひくなよ。」

レストラン、さいごの日。背中に届いた声に肩を震わせたコックは、いきなり地面に額をこすりつけて、めいっぱい叫びあげました。

「オーナーゼーフ!クソお世話になりました!!!」

その瞳からは、いくつもいくつも、美しい雫が流れ落ちておりました。

 

そして列に加わった男も一緒に、よにんはかぶを、引きました。

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロを長鼻が引っぱって、長鼻をサンジが引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

それでもかぶは、抜けません。

 

そんな折、運悪く「わるもの」につかまったゾロが、偶然女の子と再会しました。女の子はゾロをこっそり助け、このまちからさっさと去るよう、厳しくちゅうこくしてきました。もちろん、そんなことで折れる仲間たちではありません。

聞けばこの女の子は、長いあいだ、「わるもの」に利用されて、辛い日々を送ってきたというではありませんか。

「・・・助けて。」

そう小さくつぶやいた女の子に、ルフィはそっと、かぶっていた麦わら帽子をかぶせます。

「当たり前だぁぁぁーーー!!!」

あたり一面に響き渡ったルフィの声に、彼女はぼろぼろと涙を流しました。

なんたって、ルフィは本当に、強い男なのです。嫌味な高笑いを響かせる「わるもの」を、約束どおりぼこぼこにぶっとばして、ルフィはナミを仲間にしました。

再び列は、長くなります。

 

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミを長鼻が引っぱって、長鼻をサンジが引っぱりました。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

まだまだかぶは、抜けません。

 

続いてやってきたのは、青い髪の女の子でした。しっかりもので優しいこの女の子は、大きなかるがもを連れています。名前を、ビビ、と言いましたが、どういうわけだか、それ以外のことをまったく教えてくれませんでした。

 

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミを長鼻が引っぱって、長鼻をサンジが引っぱって、サンジをビビが引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

まだまだかぶは、抜けません。

 

次に通りかかったのは、にんげんの言葉をしゃべることができる、とてもおもしろいトナカイでした。ルフィはすぐに気に入って、トナカイを仲間にしようと声をかけました。

しかし、幼い頃のできごとで、みんなから「怪物」と恐れられ続けてきたトナカイは、すっかり心を閉ざしてしまっておりました。万病を治す薬を作る。そのために、医者としての修行を積んでいたこのおもしろいトナカイを、ルフィはどうしても、仲間にしたくてたまりません。

「うるせぇ!行こう!!」

仲間たちの強さとあたたかさに触れながら、だんだんに心を溶かしていったトナカイは、ルフィのそのまっすぐな熱意に、わんわんと大声で涙を流しました。

チョッパーが仲間に加わったその日には、幻の桜が、あたりいちめん美しく咲き誇ったといいます。

 

しちにんになった仲間たちは、とても心強い気持ちで、うんうんと力を込めました。

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミを長鼻が引っぱって、長鼻をサンジが引っぱって、サンジをビビが引っぱって、ビビをチョッパーが引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

まだまだかぶは、抜けません。

 

次に出会った黒髪の美女は、最初は「わるもの」の仲間でした。意味ありげに微笑む横顔が、やけに印象的なこの女性のことを、仲間たちは初め、大そう疑っておりました。

なんせ、大切な仲間のひとりであるビビの故郷を荒らし、酷い争いを起こさせて、甘い蜜を吸っていた「ごくあくにん」の組織で、とてもえらい立場にいたことがあったからです。

 

そうしてもうひとつ、この女性との出会いとともに、仲間たちに大きなしょうげきが走りました。なんとビビが、ここで仲間たちと分かれる決断をしたのです。

「冒険はしたいけど、私はやっぱりこの国を愛してるから!!だから、行けません!!!」

ずっと隠していましたが、ビビは実は、大きな国の、おうじょさまでした。

大切な仲間との別れは、ビビにとっても、仲間たちにとっても、身を切られるほど辛い選択でした。だけど、一国のおうじょさまが、こんなやんちゃな者たちとつるんでいるということを、国民に知らせるわけにはいきません。広い広い海に、ビビの声が響き渡りました。

「私はここに残るけど・・・!いつかまた会えたら!もう一度、仲間と呼んでくれますか!!!?」

健気にも、震える声で最後までそう伝えきったビビに向け、仲間たちは、静かに片腕をあげました。いくつもの思い出が、それぞれの胸に蘇ります。大粒の涙をこぼすビビの腕に記されたのと同じ、そのバッテンのマークは、強い絆の証でした。

 

ビビの代わりに謎の美女が加わって、しちにんはふたたびかぶを引きます。

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミを長鼻が引っぱって、長鼻をサンジが引っぱって、サンジをチョッパーが引っぱって、チョッパーを美女が引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

まだまだかぶは、抜けません。

 

午後の風が、優しくしちにんを撫ぜていきます。太陽は高く空に弧を描き、西に向かって少しずつ、進路を変えているところでした。

そんな折に目の前に現れたのは、カラフルなアロハシャツが目にまぶしい、大男でした。聞けば腕利きのふなだいく、これからの冒険に必要だろうと、ルフィはまた仲間にしたがりました。

ところがここで、大きなじけんが起こります。

これからの冒険について、ルフィと意見を違えた長鼻が、「仲間を辞める!」と言って飛びだしていってしまったのです。そしてそれと時を同じくして、黒髪の美女が、いつの間にか列から姿を消してしまっていたのでした。

 

ルフィはずっとずっと小さな頃から、大きな夢を持っていました。「かいぞくおうになる」。それが、ルフィの、絶対に変えられない信念であり、「ぷらいど」です。むずかしい言葉で、「あいでんてぃてぃ」と呼ばれるそれを、仲間たちは深く理解して、支えながら、この列に加わっている、はずでした。

長鼻が仲間を辞めたことで、ルフィたちは激しく動揺しました。すぐにでも駆け出して、長鼻を連れ戻したい。そう気ばかり焦るルフィの肩を、ゾロがぐっと、押さえつけました。

「一味を抜けるってのは、そんなに簡単なことなのか。俺たちがやってんのは、ガキの海賊ごっこじゃねぇんだぞ・・・!!」

 

――重い・・・。

 

ルフィがぽつりと漏らした言葉が、仲間たちの胸にぐさりと、突き刺さります。

ごにんになってしまった仲間たちは、かぶを引くのもすっかり忘れて、その場にぺたりと座り込んでしまいました。

 

みっかみばん、仲間たちは、絶望に打ちひしがれました。

しかし、深い絆で繋がったこの仲間たちは、仲間を信じることを、決して諦めることはありませんでした。

そこに微かな希望をもたらしたのは、金髪の女好きコック、サンジです。

「女の嘘は、黙って許すのが男だ。」

黒髪美女の優しい嘘を、黙って見抜いたサンジのひとことで、仲間たちはふたたび、すっくと立ち上がりました。そうです。失ってしまった仲間は、また、奪い返せばよいのです。ルフィが目指すのは、世界いちの「かいぞくおう」なのですから。

「・・・行くぞ。」

大きな瞳に燃えたぎる闘志をたたえて、ルフィはかぶから離れました。ロビンを、連れ戻す・・・!腹にくくった一本の槍が、ルフィを力強く、動かしていました。

 

ロビンが連れて行かれたその場所は、世界を牛耳る「せいふ」の、法を司る最高峰の場所でした。空にはためくせいぎの旗は、ギラギラと熱い太陽を照り返し、それはまるで、ジョリーロジャーのようでした。

「生きたいと、言えーーー!!!」

旗の中心を炎で打ち抜いたルフィは、ロビンに向かって雄たけびを上げます。

誰よりも冷静で、誰よりも賢くて、誰よりも強く自身の心を縛り続けてきたロビンの瞳から、みるみるうちに、大粒の涙が溢れ出しました。

――「生ぎだい!!!!」

海から吹く強い風が、仲間たちの背中を押しています。遠くに響く砲弾は、祝いの前章、祭りの前夜祭。助けていいと、わかったときの船長の強さは、誰の悪意にも、どんな攻撃にも、決して負けるはずはありませんでした。

 

そうしてロビンを取り戻し、フランキーまで仲間に加えて、ウソップを許した仲間たちは、はちにんでかぶに向かいます。

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミをウソップが引っぱって、ウソップをサンジが引っぱって、サンジをチョッパーが引っぱって、チョッパーがロビンを引っぱって、ロビンをフランキーが引っぱりました。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

それでもかぶは、抜けません。

 

最後に仲間になったのは、なかなかファンキーなみてくれをした、がいこつの音楽家でした。彼は、おんとし88歳。どういうわけだか、骨だけになってもなお、楽しげに歌を歌っていました。

「よほほほ~!私も仲間に、入れてください。」

「いいよ。」

「入ったーーー!!!!」

いきなりの加入に、目を丸くして驚くばかりの仲間たちでしたが、しかし彼らは、この直感が正しいことを、心のどこかで知っていました。自分が仲間になった、あの日。そして、隣で笑うこいつが、仲間になった、あの日・・・。

いえ、正しいか間違っているかなんて、本当はこの世に、ひとつも存在しないのかもしれません。

ただそこにあるのは、己を、そして仲間を、「信じるかどうか」という、選択肢だけ。

ルフィはいつだって、ただまっすぐに己を信じて、まっすぐに夢を追い、まっすぐに仲間を愛しているだけなのですから。

 

きゅうにんはいよいよ、ぐいと力を込めました。

ルフィをゾロが引っぱって、ゾロをナミが引っぱって、ナミをウソップが引っぱって、ウソップをサンジが引っぱって、サンジをチョッパーが引っぱって、チョッパーがロビンを引っぱって、ロビンをフランキーが引っぱって、フランキーをブルックが引っぱります。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

ぐ、ぐ、ぐ、と地面が押しあがり、大きな大きな甘いかぶが、地面からゆっくり顔を出します。

「行けぇーーーーー!!!」

 

――・・・ドーン!

 

大きな炸裂音とともに地上へと飛び出したかぶは、それはそれは美しくつやつやと光って、甘い匂いをあたり一面に漂わせました。

「ようし、てめぇら!覚悟しろよ?うめェもん、たらふく喰わせてやっからな!」

サンジが袖をまくりあげると、仲間たちから歓声が上がりました。今宵は、宴です。

 

どんちゃん、どんちゃん。

楽しい宴はいつまでもいつまでも、続きました。

こうしてきゅうにんとなったなかまたちは、深い絆で結ばれて、それぞれの冒険をはじめるのですが、それはまた、べつのお話。

 

(完)

 

 

 

 

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その他のお話はこちら・・・       うさぎとかめ

金のおのと銀のおの

あかずきん

 

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