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魔法の小瓶

(4)Twitterお題 : 19ゾロが森の奥でシャツを脱いで切なそうにニヤリと笑った。

 

 

金色の瞳

 

 

 

 これで八つめの森だ。

 サンジは分厚いノートを広げてさらさらと綺麗にメモを取った。人と獣のあいだの種族――ミンク族を探し求めてもう十五年の月日がすぎた。

 ヒトを研究するためには、ヒト以外を知ることから。その結論に行き着いてからずいぶん長旅をしてきたとおもう。

 サンジは白い帽子を脱いで額の汗を袖でぬぐった。うっそうとした雨季の密林は湿度が高い。頬を撫ぜるぬるい風にサンジはふう、とため息をついた。

 ――ガサガサッ!

 いきなり目の前の草むらが揺れて、なにかがいきおいよく飛び出して来る。サンジは思わずうしろに飛び退いて、そのはずみに地面へと倒れ込んだ。

 「っう、……」

 腹のうえに生き物の重みを感じて、サンジは反射的に両腕で顔を覆う。俺もついにここまでか……そう思いながら、恐る恐る目を開けた。

 「あっ……!」

 喉まで出かかった大声を、瞬間的に腹底へと押し込める。

 サンジの薄い腹のうえに堂々とまたがったその「いきもの」。美しい金の瞳に、目も覚めるような鮮やかな緑髪。虎と似かよった耳がピンと伸びて、両手はまさにハンターのそれだ。

 長いしっぽがゆらり、と揺れる。

 「……ミンク族か」

 できる限り平静を装いながらサンジはごくり、とつばを飲み込んだ。その「いきもの」はサンジをじっと見下ろして、勝気な瞳で首をたてに振る。金のピアスがしゃらり、と揺れる。森がざわざわと風を呼ぶ。

 「お前たちは……ヒトを、喰うのか?」

 ミンク族の生態は謎に包まれていて、なかには噂か本当かわからないような話もあった。そのもっともなものが「人喰い」の説で、けれどもどれも信ぴょう性が定かでなかった。

 サンジはじっとその「いきもの」を見上げて、次の反応をつぶさに観察した。そもそも言葉が通じるのかわからない。好物はなんなのか、親は、兄弟は、今から俺は何をされるのか……。

 「いきもの」は右手をぺろりと舐めて、顔面を気持ちよさそうに毛づくろいした。そうして何を思ったのか、着ていた薄いシャツのボタンを器用にひとつずつはずしていく。

 『あぁ』

 俺はもしかして。

 『喰われちまうのか?』

 見ればズボンを履いておらず、まるで風呂上りの少年のような格好だった。近くにほかの「いきもの」の気配はなく、こいつだけが迷子になったとしか思えない。

 いきものはするりとシャツを脱いでそうしてなぜだかニヤリ、と笑ってみせる。大人と子どもの間みたいだった。どうしてそんな、切ない顔……。

 「……わかった」

 サンジは小さく呟いて、腹にまたがったいきものを見上げる。

 「喰ってもいいが――その前に」

 ぐ、と頭を引っつかみ、小さな耳に唇を近づける。いきものは一瞬鋭く息を吐いて、サンジのことをギラリと睨んだ。サンジの体温が一度あがる。戸惑う吐息が耳にかかる。

 「もっといいことしようぜ……? 虎マリモくん」

 ニッと笑った唇が獰猛な甘噛みで塞がれる。

 雨の降り始めた密林に、ふたりの気配は溶けていく。

 

 

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目次とお題 : 

(1)雪の宿  (21ゾロが古宿で眼鏡をはずしてあきれたように小声でささやいた)

(2)ジョーカーのキス  (21サンジが賭博場で服のすそを掴んで上機嫌に頭をなでた)

(3)朱色の花は海に散る  (19サンジが、メリー号で着物をはおって不機嫌そうに歌をうたった)

(4)金色の瞳  (19ゾロが森の奥でシャツを脱いで切なそうにニヤリと笑った)

 

 

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