たんぽぽの舞う、海に Since 2013
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晴れの海の、苦い夜
まぶしい朝日の差し込むキッチンに、トントントンという小気味よいリズムが響いている。
パンの焼きあがる香ばしい匂いと、みずみずしく盛り付けられていく野菜たちの美しいパステルカラーが、爽やかな朝のひとときを豊かに彩っている。
いつもより少し早起きをしてきた小さな船員が、がちゃりと扉を開けて、動きを止めたのがわかった。
ごしごしと目をこすって、もう一度じっくり、こちらを見つめている。
「サ、・・・サンジぃ~~~っ?!!」
「おう、早かったなチョッパー。今、飯作ってやっからな、ちっと待ってろ。」
鼻歌交じりにトマトを刻む後姿は、昨日までのそれと、寸分たりとも違わない。
「え?え?サンジ、お前、治っ」
「おはようチョッパ・・、・・・・・え?!!!うそ、サンジくんっ?!な、なんでキッチンに、・・?!」
「んナミすゎあ~~~~~ん!!おはようございま~~~す!!本日も、ご機嫌麗しゅう。ささ、美味しい朝ごはんですよ~~~~!!」
船医に遅れること数分、パタパタと眠そうな足音をたてて現れた美人航海士は、心底信じられないという表情を、顔面に貼り付けている。
それには全くお構いなしに、くるくると求愛のダンスを踊るコックの様子もまた、いつものそれと、全く同じある。
しばしあっけにとられていた航海士は、目の前で同じく固まっていた小さな船医と目を合わせる。ふたりはパチクリと瞳をまたたかせ、腑に落ちない表情で首を捻りながら、コックに言われるがまま、キッチンへと足を進めた。
「それで、わかったのよ。“オモヒハレヌ者”の、意味が。」
カチャカチャと銀の食器が音を立てる。
それぞれの皿に盛り付けられた色鮮やかな食材たちが、焼きたてのパンとともに次々と、胃袋へと消えていく。
もぐもぐと口を動かし続ける船員たちは、朝のキッチンによく通る航海士の頼もしいアルトに、耳だけをそろりと傾けている。
「オモヒ、の部分は、“おもい”。・・・気持ちのことね。」
「あら。ずいぶんと、詩的なのね。」
うふふと微笑んだ考古学者の横顔に、航海士もにこりと笑いかける。
「そして、ハレヌ、の部分は、“晴れぬ”。・・・これを並べてみると、“想い晴れぬ者、晴れの地に足踏み入れるべからず”。・・・つまり、晴れない想いを抱えている人は、この海域に足を踏み入れてはいけない、・・・ということだったみたいなの。」
「晴れない、想い・・・?あ、それでか!」
何かに思い当たった様子の船医が、ポンと膝を叩く。
「どういうこと?チョッパー。」
「あぁ、医学書にな、この症状の治療についての項目があったんだけど・・・。その方法が、“手紙を書く”とか、“ケンカする”とか、・・・なんか、妙なのばっかりだったんだ。ナミの話聞いて、わかったぞ。抱えてる想いを、晴らしてしまえば治るってことだったんだ。・・・あぁ!だから、“告白する”が、あげられてたんだな!」
「そうなの。晴れの海域には、“晴れていない人”は入れない、ってことだったみたい。」
「うふふ、素敵な話ね。」
「そうかロビン?サンジ昨日、結構苦しんだんだろ?このウソップ様を呼んでくれれば、盛大に笑わせて、気を紛らわせてやったのによ。」
「そりゃスーパーだな!」
「にししし!よかったじゃねぇかサンジ!なんか知らねぇが、想いは晴れたんだな!」
屈託なく言い放った船長の言葉で、全員が一斉に、サンジを振り返った。
船医の話の途中から、居心地が悪そうにうつむいて目をそらしていたサンジの耳朶が、端から見てもそれとわかるほど、赤く染まっている。
「どうしたサンジ?顔、赤ぇぞ?」
「あ、い、いやチョッパー、大丈夫だ。いや、大丈夫じゃねぇか、熱っぽいかな?・・・か、風邪でもひいたんじゃねぇか?・・あ、あははは。」
「大丈夫か?病み上がりだもんなぁ・・・薬出してやるから、あとで医務室来いよ。」
「お、おう!ありがとよチョッパー!さあみんな、美味しいご飯の続きだぜ!!」
怪訝な表情でそのやり取りを聞いていた船員たちは、目の前に並んだ美味しそうなデザートに、一瞬で目を奪われる。
「わぁおいしそうサンジくん!」
「さすが、コックさんの腕は一流ね。」
「あぁ!愛しのナミすゎんに、ロビンちゅゎん!お二方のお褒めの言葉に預かるだなんて、ぼかぁもう、この世に思い残すことはありません!」
「じゃあ今すぐとっとと海に沈みがれ、エロコック。」
「あぁ?!!・・・んだとこの、クソマリモ!!!てめぇのでけぇ口には、みかん皮ごと放り込んでやろうか!!」
「上等だ、うまそうじゃねぇか。」
「ちょっとふたりとも、やめなさいよ。ゾロあんた、サンジくん病み上がりなんだからね。ちょっとは気ぃ使いなさいよ。」
「ふんっ。・・・気合がたりねぇ証拠だ。」
「んだと?!!もっぺん言ってみやがれクソマリモ!!」
「ひ弱なひよこだ、っつったんだよ、クソコック・・・っ!」
「んだとコラ!!!てめぇ本気で、ぶっ殺す・・・!!」
「もう!ちょっと、あんたもなんとか言ってよルフィ!!」
「にししし!!いいじゃねぇか、仲良しはいいことだ!!」
不意に本質を突いた船長の言葉に、ふたりはぎくりと振り返る。
「な、なんでマリモと!」
「俺は別に!」
全く同じタイミングで声を張り上げたふたりの頬が、同時に赤く染め上がる。
「じゃあ!サンジの想いも晴れたところで!今日も元気に!冒険だぁーーーっ!!」
船長の高らかな笑い声が、快晴の空に潔く響き渡った。
船は今日も、風をいっぱい帆に受けながら、軽やかに前進を続けていく。
真っ青に澄んだ空は、太陽を美しく海へと反射させる。
そのキラキラと輝く青い海原は、誰も知らない小さな門出を、密やかに、ささやかに、祝福しているかのようだった。
( 完 )