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それゆけ!麦わら戦隊☆ゾリンジャー
※ このお話は、コミックシティスパーク9でお配りした無料配布のコピー本の内容となります。
新刊などとの繋がりはまったくありませんので、これだけでお楽しみいただけます。
なお「ゾリンジャー」とは公式ともなんとも関係のないヒーローです。最後にちょっとだけ言い訳をつけました。
説明しよう!
ゾリンジャーとは、世界の平和(主にチビナス)を守るため日夜襲い来る悪党と戦うかっこいい戦士のことであーる!
「ゾロ、なにやってんの」
美しいアルトの音色が響きゾロはさっと顔をあげた。つい半日程前から地べたにどかりと腰を下ろし、薄く瞳を閉じた格好でひたすら座禅を組んでいる。その大変柔和な姿からは想像を絶するほどゾロは今、忙しかった。なにせ真剣に思い描いていたのだ、あの、小さな天使のことを。
零れ落ちるアルカイックスマイル。
「ッ危ねぇチビナス!!」
「わっ!」
ひょいと両腕に抱えあげると透けるようだった白い頬は美しい紅に薄く染まった。目の前に広がる信じられない光景。それはまるで世界の夜明け。世の人全てが求めてやまない桃源郷が今まさに、ここにある。
「っ離せ! このっ! 俺ぁコドモじゃねェ!!」
「ふぅ危ねェ……飛んでっちまうかと思ったぜ」
ゾロは言って溜め息を吐き、そのごつい掌でそろりと背に触れた。平らな背中の恐ろしく柔らかな温度。びくん、と震える小さな体。今、見えた。あれは間違いなく、天使の羽だった。
「……なぁゾロいい加減降ろせよ……」
ほんの少し触れるだけのつもりがいつの間にか夢中になっていたらしい。その美しい金糸を、細い腕を、頼もしいふくらはぎを、無骨な掌は慈しむように撫でている。
「あぁ、悪ィ」
ひょい、と地面に戻してやれば世界は再び金色に満ちた。ゾロの耳にはどこからともなく荘厳な賛美歌が聴こえてくる。まるでこいつと繋がれたことを悦び称える儀式のようだ。
不意に心許ない感情が襲い、形のよい頭頂部にぽんと掌を乗せる。「ひゃっ」と両目を瞑る姿にゾロはほっと安堵の溜め息をついた。よかった。
――なんだ、ただの天使じゃねぇか。
ゾロが天使(と書いて、チビナスと読む)と暮らすようになってからしばらくの時が経っていた。
依頼の来ないヒーローほどヒマな職業はない。その頃ゾロはやたらと造りのよい社長椅子にあぐらをかき、豪快に大いびきをかいていた。
今や悪党と呼ばれるもののそのほとんどが廃業となっていた。不況の煽りである。
長く続くデフレの余波で景気回復は「踊り場」状態。国民はかつてのバブルを恐れて大きな買い物に慎重になった。おかげで物価はぐんぐん下がり、引きずられるように給料が下がる。リーマン家庭の収支が赤字に傾くと当然さらなる買い渋りが起こった。
世に言う、デフレスパイラルである。
おかげでそれまで競うように「悪党」を買い漁っていた「ボスキャラ」風情は、どんどん金を出し惜しむようになった。当然「悪党」たちは食うに困り、致し方なくバイトを始める。
このご時勢、バイトの方が「悪党」などよりも断然稼げるのである。わざわざ他人に嫌われるよりコンビニでレジを打っていた方が平和だった。巷で流行りの「草食系男子」が流入してきたことも「悪党」の衰退を後押ししたのかもしれない。
とにもかくにもそういうワケで、みるみるうちに世間から「悪党」の需要が下がった。すると至極当然のように「ヒーロー」の需要も急下降。落下傘が落ちるようにボタボタと職をなくした同業はかつての「敵」と肩を並べてレジ打ちに精を出す始末。
――いらっしゃいませぇ(笑顔) ピッ……
「ふんっ、クソ喰らえだ」
ゾロは寝言で悪態をついてガァガァと煩い寝息を立てた。残り僅かになった仲間とは月に一回会うかどうかである。かつては毎日のように飲み歩いた仲間たちもゾロの誘いには視線を逸らした。口を突いて出るのはいつも同じ言い訳だけ。
「悪ィな。金がねェんだ、ゾロ」
『ヒーローが忘れ去られんのも、時間の問題だな』
あの頃、生きる喜びを謳歌するかのように輝いていたかつての同僚たちの姿を思いゾロは自然眉間に皺を寄せた。別に世界を守ってやるだとか大した夢を描いているわけではなかった。それでもみな心からヒーローに憧れてこの職業についたはずだ。迫り来る悪党から子どもたちを守り、泣き叫ぶ市民に安堵を与え、にっくき「悪党」をめちゃくちゃに斬り裂いて、最後はビルの屋上で歌声も高らかにマントを翻す。
「♪ど~こかの島かァら来たぅおとこぉ~ ル~ルル~ ルルララ~ みィどりいろぉ~」
――ゾゾゾゾリゾリ ゾーリンージャーアー……
最後の方は呟くような囁かな歌声だった。ゾロはいつの間にか目を覚ましていて机の上の帽子に手をかける。鳴らないベルは埃をかぶり、座り続けた椅子はキィキィと油の抜けた音を立てていた。掌に触れる雄々しいツノはかつて「ゾリンジャー」の代名詞とも言われた誇り高きそれだった。
「はぁ……」
もう何度読んだかわからない転職雑誌をパラパラとめくり、ゾロは小さく溜め息を吐く。
『笑顔溢れる楽しい職場です!』
『簡単なお仕事で年収一千万?!』
『あなたの人生がここから変わる』
レジ打ち、接客、オープニングスタッフ――華やかに並べ立てられた言葉のどれかひとつでも心に響くものがあれば幸せだったのかもしれない。ゾロはパタリと雑誌を閉じて再び机につっぷした。
「――てめェの野望は、一体どこに行っちまったんだよ」
誰にともなく呟いた台詞が己の心臓にぐさりと刺さる。ゾロは少し眠ろうと、まどろむ片目を静かに堕とした――
その時だった。
運命の扉が静かに、しかしはっきりと、光に向かって開いたのは。
「ヒーロー、いる?」
ヒーロー、と呼ばれる存在が自分であるということに、気づくまで実に十秒の時間を要した。
ゾロが静かに顔をあげると、ノックもなしに開いた扉から年端もいかない幼子が顔を覗かせているのを見つけた。
「…………俺、だが」
名乗り出ることにどこか気恥かしさを覚えながらゾロはゆっくり喉を震わせた。目の前に投げ置かれた転職雑誌が窓からの風でパラパラと無意味にページをめくる。己がヒーローであることを自覚したのはいつぶりだろう。
「よかった!」
不安そうな表情を見せていた幼子はゾロの言葉にパァっと笑顔を輝かせた。
薄紅に染まる柔らかな頬。澄んだ海のような美しい瞳。くるりと巻いた愛らしい眉毛と、風に揺れる金の髪。
幼子は慌てているのか、たたたっと走りよる途中でいきなりビタン、と膝をついた。思わず椅子から立ち上がりかけたゾロを見上げた顔がふにゃりと歪む。
「へへ、こけちった」
――あ、天使だ。
ゾロは瞬時に確信する。そうしてグ、と腹底に力を込めて床に転がる「未来」に手を伸ばした。
物心ついた頃には養祖父が父親代わりだったと、淡々と紡がれる言葉の数々にゾロは涙を禁じ得なかった。
気づけば両頬は滂沱の筋が覆い尽くし今や勇敢なヒーローの影などどこへやら。ガシ、と強く抱いた肩に顔を埋めて泣いているのは「チビナス」ではなく自分の方だ。
「ゾロ、痛ぇよ。そんなにおでこ擦りつけちゃあ」
「あぁ、悪ィ……!」
うっ、うっ、と喉を詰まらせるヒーローに天使は困った笑顔を向けている。なんと格好悪いことこの上ない。しかし、とゾロは思うのだ。この極上の天使を、どうして手放すことができようか。
「クソじじぃは、もっとセカイを知れって。セカイのツヨサとヨワサを知って、おれはもっと、大きくならなきゃいけないんだって」
おのれじじィ、いいこと言うじゃねぇか。ゾロは思って僅かに目を見開く。セカイを知れとは、なんたる深い教訓か。同じく「世界」を目指すゾロにとってそれは自分に向けられた言葉のようだった。
もうおれツヨイのにな、変なじじぃ。チビナスはきょとんと眉を寄せながらゾロがやった飴玉で頬をぷくりと膨らませた。それだけでゾロの胸にはリンゴンと壮大な鐘の音が響き渡る。きっとこれは神の福音。
「それで、セカイを知るにはいちばん、セカイに近いヤツがいいって思ったんだ。ヒーローは悪いやつを倒すんだろ? だったらツヨイもんな!」
そう言って笑う天使の頬にゾロは思わずキスを堕とす。びくっ、と肩を震わせたチビナスが、「なに?」とゾロを不思議そうに見上げた。
「これは、その……ヒーローの挨拶だ」
ぱあっと開く大輪の花にゾロは小さくガッツポーズを決めた。
それからゾロはチビナスに「セカイ」を見せるため、毎日の出動が日課になった。あの、日がな一日机に突っ伏して眠っていた日々がまるで嘘のようだった。
結局は自分だって己の弱さに甘えていたんだと、ゾロはこうなってみて初めて気づく。環境を恨み、周囲を妬み、似ている誰かを蔑んで。かつて強くなるために必要だったはずのプライドはいつしか己をぐるぐると縛る重い鎖となっていた。
ゾロはひたすら街を飛び回り、己の持てる全ての力をヒーローの仕事に注ぎ込んだ。困っているおばあさんの荷物を担ぎ、泣いている女の子が指差した風船を取り戻し、道路を渡れないアヒルには黄色旗を振り、近所のねこの喧嘩を仲裁した。
それはまるで錆び付いてギスギスと音を立てていた足枷を、思い切り引きちぎるような日々だった。
そうこうしているうちに「ゾリンジャー」の噂はたちまち街中を駆け巡るようになった。「トイレが詰まってしまって……」「友人の電話番号をなくしてしまったんだ」「結婚式のドレス、どっちがいいかしら」傍から聞けばどうでもいいような悩み事にゾロはいちいち丁寧に向き合った。
悩んでいる人は尊い。
ゾロは思うのだ。悩みに優劣などあり得ない。
明日の飯を思う異国の子どもの瞳も、近所づきあいに頭を抱える悩ましさも、好きな男子に告白できずに零す小さな涙も。そのどれもが本人にとっては、果てしなく深い「痛み」のはずだった。
――もっと大変な人もいるんだ。お前は、頑張れ。
そうやって善意のふりをした余計なおせっかいが悪意なく人々を傷つける様をゾロは見た。
だからゾロはどんな些細な悩みにだっていつでも真摯に付き合ったのだ。
そんな、ある日のことだった。
いきなり駆け込んできた長鼻の青年は、青い顔をして息を切らしていた。
「ゾ……ゾリンジャー……っ悪党が……!」
その言葉を聞くやいなや全速力で街へと駆け出す。
ひっつかんだツノつき帽子、カツカツと音を立てるハイヒール。ゾロの興奮を示すようにばくばくと音を立てる真っ赤な心臓。右の脇に抱え込んだ小さな天使は、息を詰めて頬を染める。
「――フッフッフ……、よく来たなゾリンジャー」
桃色の羽をまとった姿はおよそ「悪党」とは程遠いファッショナブルなそれだった。愉快な曲線を描くサングラスの奥に光る瞳の色は、見えない。
「随分と、お人好しぶってるみてェじゃねぇか」
にやり、と歪んだ笑顔の底にそこはかとなく冷たい空気が漂った。人の本質を見てきた気配だとゾロは瞬間、直感する。小さな波すら立たない感情はいっそ不気味なほどだった。
「そんなにヒーローが凄いか。誰かを助けることが偉いことか。勘違いするんじゃねェ。取ってつけたような偽善にまみれ、誰かを助けたつもりになって。てめェは誰かを助けることで、そういう自分に酔ってるだけだ」
ぐにゃり、曲がっていた口端がゆっくりとなだらかな平行線を描く。こうなってしまえばもはや伝わってくるのは怒りでも悲しみでもなく単なる「無」だ。
ゾロはぐ、と腹に力を込めて目の前の男をじろりと睨んだ。ここで引き下がるわけには行かなかった。
ゾロの頭の中にそれまでの日々が走馬灯のように駆け巡る。
ヒーローに憧れた幼き日々。「世界」をこの手に掴むんだと躍起になって剣を振った。いつの間にか向かうところ敵なしになったゾロに悪党たちは早々とひれ伏した。ニヒルな笑いを浮かべて立ち去る。だけど何かが違っていた。追いかけても、追いかけても、ゾロの心は満たされなかった。
「――ゾロ」
声のする方をハッと振り向けば強い視線がゾロを見上げていた。今や真っ赤に頬を染めた「天使」は物言いたげにゾロを見つめている。
――……まさか、こいつ……!
「ゾロ。いや……ゾリンジャー。俺、ゾリンジャーのこと、心からソンケイしてる」
瞳の色は変えないまま、しかしやはり強い口調でチビナスはじっとゾロを見上げる。
「ツヨクなりたいって、思ったんだ。もっともっと、ツヨクなりたいって。俺はずっとコドモだったから、こんなにセカイが広いだなんて知らなかった。お金がないって怒ってるおばさんも、犬が死んで泣いてる女の子も。みんな等しく愛おしいだなんてそんな風に思ったのはうまれてハジメテだ」
そこまでを一気にまくし立て、逡巡するように目を瞑る。蒼い宝石が隠れたことをゾロは心から悲しく思う。
なめらかで、艶やかで、世界一甘い、極上の飴玉。
「ね。だから」
ふっ……と見開かれる宝石にゾロははからずも息を飲んだ。今度はまっすぐに前を見据えたチビナスはごくりとゆっくり喉を鳴らす。びりびりと肌を刺す「覚悟」の気配。ぎゅ、と結ばれた小さな拳が恐怖のせいかふるふると震えていた。
タンっと地面に降りた天使は、そうして一直線に駆け出していく。
「おいフラミンゴ野郎! ゾロはな! 俺の、ッ……俺の、世界一なんだ!!」
ぴょん、と飛び上がった小さな天使がサングラス目掛けて拳を振り上げる。セカイを背負った大きな背中には美しく広がる羽が確かに、見えた。
大きく肩をいからせながら「ふぅ、ふぅ、」と息を乱す。泥だらけの服、乾いた地面。秋風がさらりと前髪を撫でれば天使は「わっ」と小さく悲鳴を上げた。頬を伝ったしょっぱい雫。見上げる空の、青いこと。
「ゾロ、俺……俺……っ」
うっ、うっと喉を詰まらせながらチビナスは必死で泣くのを堪えていた。どこかが痛い、わけではないだろう。
その勢い(いや、可愛さかもしれない。そうに違いない)に面食らったドフラミンゴは結局攻撃らしい攻撃もしなかった。ただ少し、驚いて振り上げた右の手がチビナスのみぞおちに直撃したらしい。涙目で「うっ」と唸った姿に僅かな動揺を見せたドフラミンゴは、奇妙なほどに頬を染めて「ま、……また来る」と宣った。「てめぇの顔なんざ二度と見たくねェよバーカ!」と捨て台詞を吐かれたときの微かに曇った傷ついた表情。あれは天下の大悪党とは到底思えない、まるで親戚のおじさんのそれだった。
「お、俺っ……つ、ツヨク、なれたかな……ッ!」
ぽろぽろと雫を落としながらそれでも泣くまいと歯を食いしばる。ゾロは微かな優越感さえ覚えながら柔らかな金糸に指を通した。一瞬びくりと震えた体が次第にゆるゆると力を解く。そうしていつの間にかわんわんと大粒の涙を流し始めた小さな勇者の背中に、ゾロは静かに指先を触れる。
温かい。
「お、俺ッ、ゾロのこと、見てて、かっこいいって、ツヨクなりたいって、そ、そう、思ったん、だ……ひっぐ。つ、ツヨイ、ことは、負けねぇ、ことじゃない。自分の足で、立って、自分の頭で、考えて、えぐっ、だ、誰かの期待に沿うんじゃなくて、何かのせいにするんでもなくて、自分で感じて、自分で動き出すことの、な、なんて、なんて、……っ」
――とうといことか。
チビナスが言ったのか、自分の心の声なのか、最後の方は溶け合ってしまってもう判別がつかなかった。ただ腕のなかに収まった小さな全身の温もりがゾロの心をひたひたと慈しみの雨で濡らしていく。
大切だ、と思う。
失いたくないと。
そう、はっきりと思ったとき、ゾロの心のなかに一筋の優しい光が差し込むのがわかった。
それはまさにチビナスと出会った瞬間にゾロが感じた何かと酷似していた。
今ならわかる。
これは。己を包み込むこの心地よい、緊張感は……。
甘ったるくとろけた頬にゾロは優しくキスを落とす。チビナスはもう、驚かない。まるで全てをわかったような柔らかな光を瞳に宿して。
「次のヒーローは、お前だ。――サンジ」
ツノ付きの帽子をかぶせながらゾロはそう、そっと囁く。チビナスは嬉しげに微笑み返す。と、みるみるうちに頬を染めたチビナスはうんしょと大きく伸び上がり、ゾロの頬にキスをしたのだった。
ハジメテだった。
あれから10年の時が流れた。
最初はおっかなびっくり組んだバディも今や当たり前の光景として市民のなかに浸透している。だいたいの仕事は一人で出かけ、東西南北どんな小さな悩みにも親切丁寧に対応する。おかげでどんなお役所仕事よりも心強いと、市民のなかに根付いた「安心」はそのまま街の「平和」となってここには穏やかな時間が流れている。
時折姿を表す「悪党」にはふたりで対峙するのが恒例だった。とはいえどうにも解せないが、ヤツはどうもわざわざ殴られに来ている節があった。わざとらしく隙を作りながら期待を込めて笑う姿に、当のサンジは気付いていないのだからゾロの心労も果てしないものである。
「おいチビナス」
「うっせぇハゲ! 俺ぁもうコドモじゃねぇ!」
いつもの悪態が聞きたくてゾロはわざと声をかける。これじゃあまるであの「悪党」と同じ穴のムジナだが、そういうわけでゾロはヤツの気持ちがわからないでもない。
……いや、一瞬たりとも渡すつもりはないが。
「次の仕事は海だとよ」
「海?」
「あぁ。なんでも、海に浮かんだレストランから緊急のSOSが発信されているらしい」
「レストラン??」
「人手でも足りねぇんだろ。お前、そこそこ料理作れたよな? この仕事、任せていいか?」
そう言うと大概キラキラと目を輝かせるサンジにゾロはいつでも破顔した。この顔が、もっと見たい。いや怒った顔でもいい。いっそすねている顔でもいいのだが、泣かせる奴だけは許さねェ。
早速地図とにらめっこを始めたサンジの愛らしい後頭部に吸い寄せられるように掌を乗せる。「……なんだよ」と睨み上げる白い頬にいつものようにキスを落とす。
「気ィつけてな」
「うっせぇマリモ野郎。てめぇこそ俺がいねェあいだにヘマして死ぬんじゃねェぞ」
ぷりぷりと文句を吐き出しながら柔らかな頬をうっすらと紅に染める。いい加減「コドモ」ではなくなったチビナスが挨拶のキスの意味を少しずつ変化させていることに、ゾロは気づいていながらも、何食わぬ顔で金糸を撫ぜる。
もう一度。
あと、もう少しだけ。
秘められた想いに気づかないフリをして、この天使を困らせていたい。
「じゃあな、チビナス」
そう言って飛び立つ後ろ姿はきっと勇気に満ち溢れている。
世間ではふたりのバディを見ると幸せになれるともっぱらの噂だ。
街の人々は口々に言う。
あのふたりは、ふたりでひとつ。
この街を守る勇敢な戦士。
それはまるで「双璧」のようだと。
完
☆ 言い訳コーナー ☆
「ゾロが、デリンジャーのコスプレをしたら・・・」
そんな凶悪なおしゃべりが、なんと即座に形になりました。作者は誰とは言いませんがへーたさんです。
もともとはローも含めて麦わら戦隊を組んでいる設定だったのですが、今回は(まさか続くのか)#0ということでゾリンとサリン(愛称)の出会い編でございやす。
・・・反省しています。
こんなの配ってすみません・・・ 「お友達にも!」って言ってたくさん取ってってくださった女神さま・・・ すみません・・・ でも書いててすんごい楽しかった・・・
ちり紙にどうぞ・・・ いい紙ですよ・・・(キンコーさんありがとう・・・)
♪る~るる~ るるらら~~ (ソゲキングのメロディで)