たんぽぽの舞う、海に Since 2013
* ゾロサン 中心、OP二次創作小説サイト。 たんぽぽの舞う海に、ようこそ *
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日曜日のやさしいキス
背中からぬくもりが流れ込む。くっついた部分が温度をあげる。
僅かに開けた窓の隙間から夏の風がまつげをかすめていく。
月がふたりを照らしている。
「……ゾロ」
その名を呼べば、触れ合った体が後ろでわずかに身じろぎした。
ため息の色が熱に染まる。夜がまたやってくる。
一味はこの張りぼての島でひと夏のバカンスを過ごしていた。
街の修繕や靴磨き、それぞれが仕事を担いながら思い思いに日々をすごす。
サンジはといえば海辺の小さなレストランの、日替わりオーナーを任されていた。美味い料理と物腰の柔らかさ。レストランは終日華やかに賑わっていて、昼間はホールいっぱいにレディたちの最高の笑顔が満ちている。
この夏の毎週日曜日、毎朝ここにやってくる。
それはこの夏の囁かな決まりごとのようなもので、あとは全て自由だった。久しぶりの再会でみな浮かれていたこともあったのだろう。
たった数週間、繰り返されることの約束された幸福にサンジは思わず頬を緩める。
朝。店の窓を開けると遠くに見慣れた姿が見える。
約束の時間からゆうに2時間ほど遅れながらゾロがのそのそと歩いてくるのが見えた。
サンジはわずかに口端を緩めて扉を思い切り押し開ける。夏の朝に似つかわしい鮮やかな緑が空に映える。
「……社長出勤か、ゾロ」
「店の位置変わったなら、知らせとけ」
ぶっきらぼうにも見える表情で当然のように扉をくぐる。サンジはその背中に続き、眉根を下げて煙を流す。
「おい、遅れて来やがったくせになに悠々と歩いてやがる。なんか言うことあるんじゃねぇか?」
「あ? あー…………」
おはよう。
振り返るまぶしそうな眼差しに、サンジはふわりと笑みを返す。おはよう。
日曜日の朝はこうして今日も、キラキラと光に満ちて始まっていく。
金糸に柔らかに頬ずりしてそっと頭を包み込む。暖かなため息が耳たぶをかすめる。
日曜の夜はこうやって、店の二階で眠るのが常だった。
頭のてっぺんにキスが落ちて、サンジは泣きそうになりながら目を瞑る。
「なぁ、くすぐってぇよ」
「あぁ。悪ぃ」
悪いだなんてこれっぽっちも思っていな風に喉の奥から声を零す。さらり、と金糸を優しく撫でてゾロが鼻先を肩口にうずめる。すん、と小さく息を吐けばそのまま静かに体温を重ねた。それだけでサンジの目の端には僅かな紅色がにじんだ気がする。……ゾロ。
「なぁ、」
「大丈夫だ。居てやるから。……もう寝ろ、明日も早ぇんだろ」
な。と優しく頭を撫でられてサンジはコクリと頷きを返す。抱きしめられた体があたたかい。頬を優しい風が撫ぜる。遠く海の音が聴こえる。消えそうな三日月が水面にうかぶ。夏の匂い。
――ゾロ。
「……おやすみ、ゾロ」
「あぁ」
おやすみ。
もう一度、耳たぶに軽く触れるだけのキスが落ちる。きゅ、と心臓が緩く疼いてサンジはもう一度目を閉じる。
なぁ。もっと、近くに居たい。
もっと欲しい、ゾロ……――
夏の気配が窓から流れてゆっくりと夜を深めていく。
海から吹く穏やかな風は移り変わる毎日に色を落とす。
少しずつ、ほんの少しずつ、次の季節の足音が聴こえる。
こうしてふたりの秘密の逢瀬はいつもの海に溶けて消える。
なぁ、ゾロ。
何度だって繰り返される真っ赤な心臓の小さな疼き。
好きだよ。
届かない台詞は降り積もり、雪のように沈んでいくだけ。