たんぽぽの舞う、海に Since 2013
* ゾロサン 中心、OP二次創作小説サイト。 たんぽぽの舞う海に、ようこそ *
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バレンタインデーキッス
ちゅ、ちゅ、と繰り返す水音が狭いキッチンに響いている。
壁際に追い詰められたサンジは、崩れ落ちそうになる体をかろうじて両足で支えていた。
甘ったるい菓子の香りが夜の光に溶けて、揺れる。
「ん、も、しつけ……」
「好きだろ」
こうされんのが。
暗にいじわるな台詞を吐いて口づけはいっそう深く抉った。
上唇、下唇、前歯の裏、頬の奥ーー
舐めとるように舌が這ってサンジはずるり、と膝を落とす。
「っと……、」
細い腰にまわされた太い腕がサンジの体重を支えてしなった。
戦う手だ。
己とは違う、けれども美しい矜持だった。
果てしなく強くしなやかな想いが、血管をとくとくと真っ赤に流れているのがわかる。
心臓を締め付ける温度が、熱い。
「ん、……ぁっ」
思わずこぼれた甘いため息にサンジの頬を紅に染まった。
すると金糸に差し入れられた無骨な指先は、堪らないようにくしゃりと髪を乱した。
昼間に開いたパーティの名残でキッチンにはチョコレートの香りが漂っている。
――夜はまだ、終わらない。
「な、ゾロ……もう」
はやく。
切ないほどに疼く腰。張り裂けそうな胸の痛み。何度しても、何度繋がっても、空虚な穴が埋まることはない。
もっと深く、もっと長く、永遠なんて……一瞬の偽物なんだから。
「なに、考えてる」
長い長いキスの合間にぽつり、とゾロが言葉を零す。とろん、と見上げた向こう側に綺麗な月が浮かんで見えた。
綺麗な夜だ。
この瞬間にずっとずっととどまっていたい。――永遠に。
「……弱ぇ頭でなに考えてんのか知らねぇが」
耳元で響く聴き慣れた低音。悪態のように零された台詞はしかし甘く、優しく、鼓膜を揺らした。
チョコレートなんか、嫌いなくせに。
「お前が横で笑ってりゃあ、俺は必ずここに帰ってくるから」
大丈夫。
さらり、と金糸を撫でる掌。月の光に揺れるまつげ。柔らかなキスがまぶたに落ちる。ふたりだけの狭いキッチン。
「……迷子に、なるんじゃねぇぞ」
「てめぇが迎えに来てくれんだろ?」
ハハ、と短く笑った口元に甘やかな口づけが静かに降る。そうして離れて行こうとした頭を無理やり掴んで引き寄せる。思い切り上唇に噛み付いてやれば欲に濡れたため息が聴こえた。
「……早く喰っちまわねぇと、溶けてちまうぜ?」
ニヤリ、と笑った口元を、深く、熱い口づけが塞ぐ。
なにが起こるかわからない。
保証された明日などどこにもない。
生きることが奇跡のような毎日に、だからこそ、一緒にいよう。
「てめぇのは……本命だ、バーカ」
夜風がゆらゆらと船を揺らし、月明かりが水面に映る。春を待つ静かな夜に亜麻色のため息が溶けて、消える。
ふたりきりのキッチンに、甘く漂う菓子の香り。
明日からまた、いつもどおりの日常。
今夜だけはほんの少し、特別な味を加えてやろうか。
「奇遇だな、俺も本命だ」
ニッと笑った横顔に暖かな光がほのかに滲む。
そのごつごつと骨ばった頬にサンジはひとつ、キスをする。
甘い、甘い、チョコレートの匂い。
しあわせの意味を溶かしながら。
☆ ハッピーバレンタイン! (2015.2.14 増田屋)