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とまどいの、夜啼き。

——・・・ギシリ。

 

小さなベッドのきしむ音が、狭い部屋に静かに響く。

背中に触れる布はざらざらとして、決して高価とは言えない趣を伝える。

それでも、ゆらゆらと揺れるいつものそれと比べれば、ずいぶんと上等な寝床である。

 

階下からは、賑やかで粗暴な宴の喧噪が届いていた。

古き良き港町のはずれにある、雑多な飲み屋の階上。

女を連れ込むには薄暗く、訳ありの情事に使用されるのであろうその部屋は、それでもベッドだけは小綺麗に整えられ、職業柄かやたらと清潔さを気にかけるコックのお眼鏡にも、なんとか適ったようだった。

 

古く傷んで密室を作るには心許ない扉には、コックの意思によってきっちりと、錠が下ろされている。

剣士にとっては、別に途中で邪魔が入ろうがただぶった斬ればいいだけのことなので、鍵をかける暇があれば一刻も早く、コックを抱きしめて啼かせたいと気が急いた。しかし、「・・・閉めろよ。」と目を伏せてつぶやくその様子に、零れ落ちる羞恥を感じて、それはそれで密かに煽られたのだった。

 

ベッドは窮屈そうに身じろぎをして、2人の男の体温を受け止めている。

 

 

「・・・見事に、緑、だな。」

「あァ?」

 

剣士はサンジの妙な発言に、めいっぱいの不服の色で睨み上げる。

古い木板の並んだ壁と同じ素材で作られた天井が、ところどころ薄い染みを作る。

作り付けの甘い隙間から、天井裏の空気が入り込む。雨の日には、雨漏りでもするのだろうか。

 

「目ぇ、・・瞑れ。」

「・・・、」

 

頭上から降ってくる声には、微かな戸惑いが滲んでいる。

緑の短髪を撫ぜる繊細な指先は、ゆっくりと顔の輪郭を確かめて、片耳のピアスをしゃらりと揺らした。

憎たらしく歪んだ口に煙草を咥えたまま、強気な表情で覆い被さるコックの額に、僅かな汗がじとりと滲む。

 

「だったら、・・・瞑らせてみろよ。」

 

にやりと意地悪く笑った剣士の口元には、噛み付くように乱暴な口づけが堕とされた。

 

 

-------

 

 

事の始まりは、飲み屋で交わされた些細な言い合いだった。

「だから!てめぇはいっつも、自分のイイようにヤるばっかじゃねぇか!」

金糸を揺らしながら煙を吐く、それなりの色男の口から突如発された大声に、店屋の空気がピタリと止まる。

 

「ばか!声でけぇんだよクソコック・・・!」

目の前に転がる酒瓶の量に反してまったくの素面を保った剣士が、コックの言動をたしなめた。

 

 

ここ最近、ちまちまとした戦闘が、毎日のように続いていた。

突然の夜襲に、島での乱闘に、いちいち狩り出されるサンジと剣士は、当然おちおちと体を重ねている暇もない。

 

戦闘の合間に、性欲処理のような短いセックスを重ねる。

 

互いに急いで果てるたび、ふたりの間には微妙な空気が漂った。

どことなく物言いたげに瞳を向けるコックに、「しょうがねぇだろ。」と吐き捨てる。

コックは微かに哀しげな視線を寄越して、何かを言いかけ口をつぐむ。

 

不満足とでも言いたいか・・・?

 

しかし、満足できないのは剣士も同じことだった。

焦ったように情事を重ね、白く濁った欲情を吐き出したところで、剣士の心はちっともスッキリしない。

明日もまた、暖かい眠りにつくことは叶わないのだろうか。

無意識に舌打ちを繰り出して、ため息をつきながら部屋を去る。

いい知れぬ苛立ちが、ふたりの間に募っていた。

 

 

コックが叫んだ野暮な台詞に、周りを囲む客の耳が密かにこちらに向けられたのがわかる。

 

そりゃあ、そうだろう。

黙ってりゃそれなりに、見るに耐えうるこの男が、さっきから厭に絡んでいたのは明らかに同性の輩であったし、その口元から今しがた吐き出されたのは、どう考えても肉欲的な関係のある相手に対する言葉だ。

 

——・・・あぁ、面倒くせぇ。

 

剣士はあからさまにため息をつくと、すわった目でこちらをうかがうコックの手から、すっかり氷も溶けて不味くなったグラスを奪い取る。

 

「んぁ、っにすんだクソマリモ!」

「飲み過ぎだ、アホが。」

「んだと!俺はまだ、これっぽっちも酔ってねぇ!」

 

はぁ・・・これだから、酒の弱ぇヤツに付き合うのはつまらねぇ・・・。

 

剣士がふたたび吐き出したため息は、微妙に焦点のずれたコックの、潤んだ青い瞳に吸い込まれていく。

 

 

別に、見ず知らずの観客にどうこう思われることは、ゾロにとってはさほど大きな問題ではない。

もともとこの飲み屋を選んだのも、その奥まった場所と窓のない外観に、黙って鍵を渡してくれるだろう懐の深さを見て取ったからであり、今は興味半分で耳をそばだてるお客たちだって、もう半分では見慣れているいつもの光景であることに違いなかった。

 

むしろ、こういうことを躍起になって隠し通してきたのはコックの方だ。

女に対してはああまでもオープンにへろへろと愛好を崩すくせ、剣士との関係について語ることについてはやたらと慎重に避けたがる。剣士としてはコックを抱ければそれで満足なので、話していいと許しが出たところで誰に惚気るつもりも毛頭なかったが、潔癖なまでのコックの隠しっぷりは時折、剣士の悪戯心を刺激した。

なにせ、バカに感じやすく、イきやすい体質である。にも関わらず、とにかく声だけは堪えようと、組み敷かれたコックが必死で悶えているのだ。なんとか声を上げさせようと、いろいろ試してみたくなるのは、男の性というものだろう。

少しでも声が漏れようものなら、白い頬を真っ赤に染めあげ、慌てて手の甲で口元を押さえつける。それが船上で行われるときなどは、なおさらだった。

 

 

そんな、律儀なコックのことである。

いくらクルーたちの目の届かない場所だからといって、こうしてあからさまな台詞を張り上げるなど、滅多にあることではない。

 

剣士はやれやれと首をふり、コックの財布から札を何枚か抜き出した。

 

だいたい今日は、コックの誘いに乗ったのだ。

何はともあれベッドに直行し、今すぐめちゃくちゃに抱き竦めてやろうという心づもりで飲み屋の扉を開けた剣士に、何を思ったか酒を飲もうと言い出したのは、コックの方だ。

そんな申し出など聞かずに、さっさと担ぎ上げることもできたのだろう。しかし、コックの方から誘いを寄越した珍しさに、何か思うところもあるのだろうと、幾晩か前の哀しげな瞳を思い出しながら、剣士は誘いに乗った。

今にも破裂しそうな自身の中心をなんとかなだめ、うまくもない酒に付き合う。

まるで女みたいに「雰囲気」とやらを大事にするコックを、ここで無理矢理抱いたところで、結局ジタバタと暴れられるのも、それはそれで面倒くさかった。

 

——まぁ、そういうのも、・・・嫌いじゃねぇが。

 

内心でそう呟いたのを悟られないよう、透明な水をぐっと飲み干す。

 

コックはベラベラとよく回る舌で、上機嫌に何かを話し続けた。

何がそんなに楽しいのか、ケラケラと笑ったかと思うと、突如ほろほろと涙を流し、突発的な怒りに顔を赤く染める。

クルーの前ではあまり見せない、くるくると変化する豊かな内情を、剣士はこういうときにひっそりと確認して、心から愛しく思うのだった。

 

 

そうして、右から左に生返事を続けていた剣士は、「おい!聞いてんのかクソマリモ!」という大声で、コックの顔面が間近に迫っていたことに気が付いた。

 

「・・・?」

「聞いてなかったのかよてめぇ!」

「・・・悪ぃな。てめぇに見とれちまってた。」

「なっ・・・!いつもそうやって、余裕ぶちかましやがって・・・だいたい俺は、てめぇに突っ込まれてばっかじゃねぇか!」

 

何に怒っているのか、突然耳に飛び込んできた随分な台詞に、さすがの剣士もぎょっと一瞬固まった。

いったい、どういう話の流れで、そうなるんだ・・・。

 

「そりゃぁ・・・仕方ねぇだろ。だいたい、てめぇはよがってりゃいいんだから楽だろうが。」

「はぁ?!無理矢理つっこまれていいようにされて、楽もなにもねぇだろうが!」

「んだと?」

 

剣士のこめかみが、ピクリと震える。

 

「・・・こっちが気ぃ使って酒に付き合ってやりゃあ・・・随分な物言いだなクソコック・・・!」

「んだとクソマリモ・・・!てめぇはあの程度で、俺が満足してるとでも思ったか・・・!」

「はんっ、よく言うぜ。さんざん気持ち良さそうに啼きやがって、そのケツひくつかせながら涙流してんのはどこのどいつだ・・・!」

「だから!てめぇはいっつも、自分のイイようにヤるばっかじゃねぇか!」

 

ピタリと止まった飲み屋の空気に、剣士もぎくりと我に返る。

「ばか!声でけぇんだよクソコック・・・!」

揺れる金糸にまとわりつく紫煙が、やたらと色っぽくゾロを煽った。

 

このクソコック、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって・・・

 

「おい旦那、部屋借りるぞ。」

無造作に投げて寄越された鍵を受け取り、コックをよいしょと肩に担ぐ。相変わらず、細い腰だ。

「お、おいやめろマリモ!下ろせ!!」

酔っぱらいの弱い抵抗を軽々と丸め込んだ剣士は、握った札をぐしゃりとカウンターに押さえつけ、いまや隠しもせずに向けられた好奇の視線を背中に集めながら、スタスタと上階へ歩を進めたのだった。

 

 

-------

 

 

どさりと投げつけた体は、弱いバネに弾かれて、小さくいちど跳ね上がった。

くすんだ麻のシーツがくしゃりとしわを寄せ、苦痛に顔を歪めたコックの体をぽすりと包む。

 

「・・・ってぇな!もちっと優しくできねぇのか!」

 

真っ赤な耳たぶで睨み上げるコックを、仁王立ちでじろりと見下ろす。

どの口が、恥ずかしげに目を伏せて、鍵を閉めろと宣ったのか。

ったく、ヤル気満々なくせに・・・。

はぁと小さくため息をついて、一応の抵抗をみせるコックの上に、問答無用で覆い被さる。

蒼い目にかかる金糸をそろりと掻き分け、じとりと汗の滲んだ額に軽い口づけを堕とせば、敏感なコックの細い腰はそれだけで、ピクリと小さく浮かびあがった。

 

「ゾロ、・・・頼みが、ある。」

 

まずは首筋にでもかじり付こうかと、素早く顔を寄せた剣士の耳に、サンジの遠慮がちな声が届いた。

おずおず、といった様子で差し出された台詞には、微かな恥じらいがまとわりついている気がする。

 

頼み?・・・なんだ?

 

怪訝な顔で見返す剣士を、サンジの蒼い瞳がじいと見つめ返す。

酔い・・・だけではない理由で紅潮した頬が、やたらとゾロの中心に響いてくる。

何かを言おうと言葉を飲み込んだサンジが、どこかしおらしい様子で目を伏せた瞬間、剣士の喉がごくりと鳴った。

 

「・・・その、・・たまには俺も、・・・上に、なりてぇ。」

「は?」

 

恥じらうコックの口から零れ落ちたのは、思ってもみない言葉だった。

上に、なりたい?・・・どういうことだ?

戸惑う剣士の耳に、遠慮がちなコックの言葉が、ぽつりぽつりと届けられる。

 

「てめぇは、・・・自分のいいように動けるんだろうが、下の俺はされるがままだ。特に最近、全然満足にヤれねぇじゃねぇか。時間も限られたなかで、てめぇが焦れば焦るほど、俺は、・・・その、・・気持ちよく、なれねぇんだよ・・・。」

「・・・しっかり毎回イくじゃねぇか。」

「それは!・・・そうなんだけどよ・・」

 

ゾロとしては心外な申し出だったが、コックの真剣な瞳は、それが紛れもない本音だということを物語っていた。

もちろん剣士とて、これでいいなどと思いながら抱いていたわけではない。

確かにいつもよりは乱暴な口づけをせざるを得なかったし、後孔を解す余裕もなくほとんどそのまま突っ込んで、痛い思いをさせている自覚はあったのだ。

そのたび、悪いとは思っていた。思っていたが、剣士の方も限界だった。

コックの見せた哀しげな表情に、やたらとイライラ心が波立ったのは、この罪悪感がゆえ、だったのだろう。

 

「・・・溜まってんのか。」

 

ふと思い当たった剣士が、サンジにさらりと言葉を投げかける。

ひと呼吸おいてコクリと頷いたコックに、小さくため息を漏らした剣士は、ことさらゆっくりと、その揺れる金糸を撫ぜた。

 

「バカだな。さっさと言えばいいじゃねぇか、アホコック。」

「言えるかよ!んなこと・・・ゾロが悪ぃわけじゃねぇってことくらい、俺だってわかってんだ。」

 

罰が悪そうに視線をはずしたコックを、上から覆い被さったままでじっと見つめる。上気した頬が、こんなときにまで、剣士の欲情を僅かに煽っている。

 

自身の欲求不満を、けなげに言い出せないまま、不発の想いをひとり吐き出す夜もあったのだろうか。

 

潔癖なコックは「俺の好きなようにヤらせろ」と、そんな簡単な台詞さえも躊躇って、酒の力を借りてようやく、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐことができたのだろう。

気づいてやれなかった情けなさと、それを覆い尽くすほどの愛しさが、剣士の胸に込み上げてくる。

 

「・・・わかった。」

 

その白い首筋に、ついばむような口づけを堕としたゾロは、ゆっくりと体を離してから、サンジの横に寝転がった。

美しく青い瞳が、丸く見開かれている。

 

「好きなように、ヤればいい。その代わり・・・」

 

剣士の声が、狭い部屋に柔らかく響く。

 

「初めてなんだ。・・・優しくしろよ。」

 

サンジを煽るような甘い台詞に、その喉がごくりと鳴ったのを、隣の剣士は見逃さなかった。

 

 

-------

 

 

「っ・・・い、ッ・・」

 

固く閉じた唇を割って、熱い舌が入り込む。

口内をくまなく蹂躙する動きに合わせて絡めた自身の舌に、思い切り噛み付かれた剣士は思わず、苦痛の呻きを喉から漏らす。

 

「・・・焦んな。」

「わり、」

 

余裕のない唇が、ゾロのそれより熱く燃えて、首筋に浮かんだ血管を不器用になぞっていく。

そろそろと遠慮がちに這わされる白い右の掌は、まるで剣士の傷を確かめるように、丁寧に、執拗に、上半身の要所を探っていた。

 

「ッ・・・、」

不意に赤らんだ突起に指が触れ、甘い吐息が零れ落ちかける。

寸でのところで飲み込まれたそれは、じとりとした汗になって、剣士の額ににじんでいく。

厭にしつこく検分されていく躰が、じわりじわりと温度を上げていくのを、剣士ははっきりと感じていた。

油断をすると、甘い呻きが漏れだしてしまいそうだった。

いくら馬乗りを許したとはいえ、それは自身のプライドに反すると、剣士はギリリと奥歯を噛み締める。

 

「・・・どうした?辛ぇか。」

ふと手を止めたコックが、何かを探るような瞳で、剣士を見下ろした。

「んでも、・・・ね、ッん、・・」

今度こそ意図的にその、欲情のいったんを軽くつまみ上げたコックは、唇の端を意地悪く歪ませる。

はだけられた赤い突起は、固く切なく熱を持ち、次の刺戟を今か今かと待ちわびているようだった。

 

く、こいつ・・・っ!

 

「ここ、いいのか、ゾロ。」

「・・・うっせ、ッぁ、」

 

悪態をつこうと口を開けば、その隙間からは、堪えきれない蜜声が零れ落ちる。

再び強く唇を噛み締めた剣士を、どことなく面白そうに眺めたコックは、下半身を包み込む布を押さえつける真っ赤な帯を、片手でするすると、解いていった。

 

「てめぇでも、そんなカオすんだな。」

「・・・そんなに俺がイイかよ、エロコック。」

「はっ、そうだな、・・・嫌いじゃないぜ。」

 

耳元で囁かれた低い声が、背筋に電気を走らせる。

その昂揚を誤摩化すかのように、口内で小さく舌打ちをうつ。

組み敷かれているという敗北感と、微かに感じる抗えない情欲が、剣士の胸の内を厭らしく舐めまわっているようだった。

 

慣れた手つきでベルトをはずしたサンジが、するりとズボンを投げ捨てる。

はだけた胸からのぞく、白い素肌がやたらとそそる。

 

あぁ、あの肌に、真っ赤な跡をいくつも残してやりたい。

 

「んだよ、もう準備万端じゃねぇかコック。」

「・・・うっせぇ!」

 

一枚の布に隠された欲情の塊は、明らかな硬直感で存在を強く主張していた。

そのひとことに耳たぶまで真っ赤に染めたサンジが、それを隠すかのように、ゾロの躰のあちこちに唇を這わせていく。

 

「てめぇこそ。・・・これ、どうすんだ。」

「ッお、ァっ・・!」

 

ずるりと剥がされた下着の中から、ゾロの兆しがぼろりと顔を出す。

抵抗の声を上げる間もないままに、いっきに熱い口内に含まれたそれが、突然の悦びにびくりと震え上がった。

 

「お、おい・・やめ、」

「やめねぇよ。」

 

浮き出た血管をつうとなぞる舌が、先端に到達するたびにビクンと腰が浮き上がる。

剣士は必死で押し黙ったまま、体中からだらだらと汗を流す。

淫靡な音を立てて離れるサンジの熱い唇は、次第にそのスピードをあげながら、剣士の中心を何度も何度も含み直していった。

 

「バカおい、ダメだ、それいじょ、あ、ッ・・サン、っ・・・!」

「・・っイけ、ゾロ・・・ッ!」

 

コックの低いうめき声が耳に届いた瞬間、剣士はその欲求の全てを、熱い口内にぶちまけた。

 

 

-------

 

 

「はぁ、はぁ、っ・・・・・やるじゃねぇか、クソコック。」

「・・・早ぇんだよ、クソ剣士。」

 

ふたりの吐き出す荒い呼吸が、生暖かい部屋の空気にゆらりと溶けていく。

安物のベッドの上で両足を投げ出した剣士は、その片腕で顔を隠すように、天井をあおいで転がっていた。

 

「まだ、ヤれるな?」

「・・・誰に聞いてんだ。」

「ふん、・・その余裕もここまでだぜ、クソ剣士。」

 

ニヤリと笑ったサンジは、まだ疲労の残る剣士の躰を、くるりとうつ伏せに裏返した。

不意をつかれて造作もなくひっくり返された剣士は、はたと現状を飲み込んでから、ぶるりと大きく戦慄する。

 

「お、おいコック、ほんとにヤんのかよ。」

「あぁ?いいつったのはてめぇだろ。」

「いや、しかし・・・、」

「後ろの方が楽だからな。・・・今日はこっちで、突いてやる。」

「あ、おい、サン・・っっっ!!!」

 

戸惑う剣士が抵抗の言葉を言い終わる前に、ぬとりとした冷たい感覚が、剣士の後ろを遠慮がちに襲った。

 

「いっ、・・・冷、っ」

「あるとないとじゃ大違いなんだ。・・我慢しろ。」

 

そのままくるくると馴染まされた液体が、中心に向かって徐々に指を、滑らせていく。

 

 

——・・・小指。

 

「っうぐ、ッ!!!」

「・・・ちっと、我慢しろ大剣豪。すぐに、・・・ヨくしてやる。」

 

孔の中で液体が擦れる音が、厭らしく部屋に、反響している。

本来ならば「出て行く」場所に、細いながらも物体が挿れ込まれたことで、ゾロの躰は強烈な拒否感を覚えていた。

 

これは、・・・辛い。

 

剣士の脳裏には思わず、コックに対する謝罪の言葉が浮かんでいた。

こいついつも、こんなの挿れてやがったのか。・・・無理、させてたんだな。

 

 

——・・・人差し指。

 

「ッあァ、ぁ!!」

 

いったん抜かれた小さな指に、ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、今度はさらに強烈な挿入感が、ゾロの後孔に迫ってきた。

先ほどよりも随分と深く挿れられたのが、体感としても伝わってくる。

深度が増した分なのか、剣士の躰には、これまでに経験したことのない新たな刺戟がもたらされていた。

決して気持ちの良いものではない。

しかし、相変わらず続く酷い異物感とは別の感覚が、ゾロの後孔に生起しはじめているのも、事実だった。

 

 

——・・・中指。

 

痛みに耐えるかのように強く顔をしかめた剣士の躰が、異物感に隠れた「何か」を探して、だんだんに感覚を研ぎすませ始める。

なんだその、奥底に揺れる、微かな灯火は・・・。

 

違う、そこじゃねぇ。そこじゃなくて、・・もっと、・・・

 

 

——・・・薬指。

 

「んっ、・・・ぅ、は・・ッ!」

「・・・3本。挿ったぜ。」

 

バラバラと不規則に動く指先が、厭らしい水音をさせて、ふたりの耳を刺戟していた。

その指が、ある部分に触れるたび、ゾロの腰がビクリと跳ね上がる。

強烈な異物感は拭えていないのにも関わらず、その合間にふともたらされる激しい快感に、ゾロの心臓はドクドクと、独りでに鼓動を早めていく。

 

「ここ、・・・だな。」

努めて冷静に吐き出されたコックの言葉には、僅かな焦燥感が滲んでいた。

 

 

一気に引き抜かれた指先に変わって、そそり立つ熱い塊が、ゾロの双丘にぴたりと押しあてられる。

熱く脈打つ塊は、3本の指とは比べ物にならないくらいの存在感を示している。

チラリと後ろを見遣ったゾロは、赤黒く猛るサンジの中心をその目にとめて、思わずぶるりと躰を震わせた。

 

それ、ほんとに、・・入るのか・・・?

 

「挿れるぞ、ゾロ。」

「いちいち聞くな。・・・さっさと挿れろ。」

「・・・かわいくねぇ野郎だ。」

「うるせっ、ッッあ、ァァん、!!・・・っぐ、・・ッ!!!」

 

剣士の言葉を遮るように、サンジの欲情の塊は、一息にゾロの後孔を貫いた。

 

「っっ・・・は、・・はぁ、はぁ・・・い、いきなり、てめぇ・・・っ!」

「・・っく、きつ・・・ってめ、締めん、な・・ッぁ、ん・・・」

「はぁ、はッん、っ・・」

 

無遠慮な挿れ方とは対照的に、そろりと動き始めた腰の動きが、次第に速度を増して行く。

薄い壁に反響する水音が、欲情の律動を彩っていく。

 

「あ、んん、悪・・っぃ、ゾ、・・っ」

「んっ・・ぁ、なんか、言・・ッん、ァ・・たか、クソコッ、」

「・・ぃ、・・・悪ぃゾロ、俺・・・と、止まれねぇ・・ッ」

「・・・っ!」

 

余裕を失ったサンジの声色が、頭上からはらはらと降り注いだ。

ポタリぽたりと背中を濡らすのは、滴り落ちる汗と、塩分を含んだ雫のようだった。

投げ出されたゾロの両の手を、サンジの白い掌が、上からぎゅうと握りしめる。

無理矢理に首を捻って後ろを振り返れば、無我夢中で腰を振る切ない横顔が、チラリと視界に見切れていった。

 

「ん、ん、・・・あッん、んン、ふぁっゾ、ゾロ、っ・・ゾロ・・・ッ!」

「サ・・・ッ!く、・・・っん、・・・ッ、」


先走りに濡れた先端が、ゾロの要所を深く擦っていく。

初めての快楽に悶えるコックの腰の動きはしかし、徐々にコントロールを失って、微妙にポイントをはずしていく。

 

「や、あ、もダメ、ゾロっ・・!イく、イっ、あぁっ・・・んン!」

「サンっ・・・、」

「んァ、ッッッぅ、ン、だ・・・め、あ、・・っんンン・・んっっ!!!!!」

 

後孔から溢れ出す欲情の残り香は、ざらざらとしたシーツの上に点々と、薄い染みを作っていった。

 

 

-------

 

 

「お前なぁ、・・・突っ込むなら突っ込むで、ちったぁそれらしく、」

「るせぇクソマリモ!てめぇがあんな、締め付けてくるからだろうが!」

 

羞恥に頬を染めたコックが、ぎゃんぎゃんとうるさく喚き散らす。

剣士を絶頂に連れて行けなかったからなのか、はたまた挿れる側にありながらしおらしく嬌声をあげてしまったからなのか、もしくはそのどちらもか・・・が、よほど悔しかったのだろう。サンジはまるで怒っているかのように、真っ赤な顔で剣士に向かって怒鳴り声を張り上げていた。

まったく、当てつけもいいところだ。

 

だいたいそりゃあ、

 

「気持ちよかったって、ことだろう?」

「ッう、・・・うっせぇクソマリモ!!!!!」

 

どかりと繰り出された足技をひょいと掴んで、よいしょと肩に担ぎ上げる。

 

「・・・は?なにす、」

「んなに啼きてぇなら、お望みどおりに啼かせてやる。」

「ば、ばかおいゾロ!今日はもう、」

「まさか、あんなのでくたばっちゃいねぇだろうな、クソコック。俺は全然、満足してねぇんだよ・・・っ!」

「ッ・・・!」

 

意地悪く引きつった口元に、先ほどまでとは違った余裕が浮かび上がる。

 

やっぱりこいつは、見下ろす方がしっくりくる。

ったく、人のこと犯しといておきながら、結局可愛らしく悶えやがって。

 

ずきずきと痛む後孔の鈍痛を見ないことにして、コックにどさりと覆い被さる。

今日はほんの少しだけ、いつもより優しく抱いてやろう。

 

 

さぁ、これからが本番だ。

 

「ゾ、・・ゾロ、」

「あぁ?」

「そ、その、・・・や、・・優しく、してください・・・。」

「・・・てめぇしだいだ。」

 

ニヤリと歪んだ唇に、サンジの腰がぶるりと震える。

 

 

いいか、クソコック。

 

——“ヤり方”っつうのを、その躰にたっぷりと、教えてやるよ・・・!

 

 

 

 

 

( 完 ) 

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