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甘いデザートをどうぞ

新世界。

 

午後二時三十分。

 

 

麦わら帽子をかぶった陽気なジョリーロジャーが、真っ青な空に向かって大げさにはためく。

 

 

キッチンからは、お菓子を焼く甘ったるくて香ばしい匂いが、ふわふわと立ちのぼる。

「食」に目がない船長のおかげか、この麦わら海賊団は、毎日のおやつの時間が恒例となっている。

 

腕利きコックの作るおやつはまさに絶品で、しかも船員の好みに合わせて、ひとつひとつに微妙な調整が加わる。これがまた、その日の体のニーズをばっちりと掴む調節具合で、腹だけではなく心までもが満たされていく。

 

それゆえこの麦わら海賊団にとって、こと天気のいい午後のひとときなどは、待つのも楽しい幸せな時間、ということになっている。

 

 

 

 

キッチンの扉が、ガチャリと開く。

 

鼻歌交じりにみかんをスライスしていた金髪のコックは、一瞬チラリとその気配を確認すると、わざとらしくため息をついて、手元の作業に戻る。

 

「お腹をすかせたマリモさん、あっちで待ってろって、言っただろう?酒ならさっき、ナミさんが持ってったぞ。」

 

透明なゼリーの上に、爽快な香りのするハーブをちぎって乗せ、スライスしたみかんとともに、器を夏色に彩る。その上から、チョコレートのような甘い香りのするソースを流し入れ、いったん冷蔵庫で冷やす。

ナミさんの分は、いつだって特別だ。

なんたって、あの見目麗しいボディを保つためには、日頃のケアと栄養補給が重要なのである。

 

 

がたん、と音がして、マリモが椅子に座ったことが了解される。

 

「・・・おい?あっちいってろって、てめぇの分はまだできてねぇぞ。」

「あぁ。」

 

『?』

サンジは、椅子にドカリと腰掛け、テーブルにひじをついてこちらを見上げるマリモを、怪訝そうな表情で見据える。

 

 

こいつがキッチンに入ってくるとは、珍しい。

 

午後のこの時間は、普段何かと忙しい船員たちの、貴重な活動の時間でもあった。時折、ロビンちゃんが日差しを避けるために入ってきたり、チョッパーがおやつ時間のお手伝いを申し出てくれることはあったが、だいたいがそれぞれの、やりたいことに専念している時間である。

 

ましてやこのマリモがキッチンに入ってくることなど、めったにない。

 

筋肉バカのマリモはたいていこの時間、ぐぅぐぅとでかいいびきをかいて昼寝をしているか、汗水を垂らしながらダンベルを上げているかと、決まっているのである。

 

 

「・・・なんだよ?気持ち悪ぃな、・・・なんか用かよ。」

 

冷蔵庫に特性ゼリーをしまうと、冷えるまでの時間は、しばし休憩の時間だった。

寝かせているあいだを心穏やかに休むことも、時間調整というコックの大切な仕事のひとつである。

 

特にすることもなくなってしまったコックは、それでも手持ち無沙汰でテーブルにつくことが何となくはばかられ、バンと冷蔵庫をあけてしげしげと何かを探した。取り出した白い液体を、ドボドボと冷たいボールに注ぎ入れる。いつもと様子の違うマリモを訝しげに見据えながら真向かいの椅子につくと、内心で小首を傾げながら、シャカシャカと音を立て始めた。

 

「なんだ?そりゃ。」

「あぁ?生クリームだよ。見りゃわかんだろ。」

「・・・ふん。」

 

マリモは相変わらず、ひじをついたままコックをじっと見つめている。

 

「酒でも切れたのか?」

「いや。」

「腹が減ったとか。」

「・・・いや。」

「・・・おやつの時間には、まだ早ぇぞ。」

「あぁ。」

 

相変わらず生返事のように相槌をうつマリモに、コックは精一杯の不信のまなざしを向ける。

何やらじっとりと見つめられているような気がして、サンジはいつもの調子が出ない。

 

キッチンにはシャカシャカと、生クリームを泡立てる音が響いている。

だんだんと腕が心地よい疲労に襲われる。しかし空間を満たすこの音を、今途切れさせてしまうことは、何となく不穏な結果を招きそうで、リズムよく振り続けるシェイカーをなかなか休ませることができなかった。

 

生クリームが、どんどんしっかりと筋を描きはじめる。

 

「・・・っ、なんなんだよクソマリモ!ったく、気が散るなぁ。用事がねぇならあっちいってろよ。」

「・・・用事なら、ある。」

「じゃあなんだよ早く言えよ焦れってぇな、おれだって忙し、」

「てめぇが見たい。」

「・・・は?」

 

「・・・てめぇを、ここで、見ていたい。」

 

「ッ?!!!!」

 

ガチャン!と大きな音が響いた。

思いも寄らない言葉に手元が狂った。滑り落ちたシルバーのボールは、ふたりだけのキッチンの床にゴロゴロと音を立てて転がり、硬めに泡立った生クリームが、その板の上に点々と白い泡を堕とす。

 

「ば、ッ・・・なに、言ってやがんだ!てめ、なめてんのかコラ!!」

真っ赤な顔のコックは、いきおい椅子から立ち上がる。今しがた耳に飛び込んできた甘い言葉を振り払うかのように、目の前のマリモを闇雲に罵倒する。

 

「いや。ただ、ここにいたいと、思っただけだ。・・・悪ぃか?」

「や、・・・ッわ、悪ぃとかそういうことじゃ、ねぇけど、いやそうじゃなくって、・・・だから、・・・っな、なんなんだよ急に!!!」

耳朶まで真っ赤に染めたコックは必死でマリモを睨みつけ、ありったけの抗議の声をあげている。

 

「・・・んな、びびんなよ。」

「びびってねぇよ!!!・・ひあッ!」

 

テーブル越しに腕を掴まれたコックが、反射的に甲高い声をあげた。

 

やにわに響いた耽美な声にほんの一瞬たじろいだマリモは、すぐさまその意味を理解してニヤリと表情を変えると、腕を掴んだままコックに近寄って、その真っ赤な耳元に低音を響かせる。

 

「んだよ。カワイイ声出してんじゃねぇよ。・・・俺ぁここで、見てるだけでいいっつってんのに。」

「て、てめぇが急に!腕掴んだりするからだろ!!」

赤らんだ頬を歪ませて、涙目でキッとマリモを睨む。絞り出される声は心なしか、切羽詰った様子で裏返っている。

 

「は、・・んな顔で、誘ってんじゃねぇよ。・・・抱かれてぇのか?」

「ばッ!てんめ、・・・っキッチンで何考えてやがる!!!」

「へぇ。キッチンじゃなきゃいいのか?」

「あぁ?!い・・・、いや!違ぇよそういう意味じゃねぇよ!クソマリモ!!」

 

腕を強く掴んだまま至近距離からじっとコックを見つめていたマリモは、その言葉を聞き終わると、不意にその場にしゃがみこんだ。

そしてしばらく床に転がっている生クリームを眺めていたかと思うと、何を思ったかその太い人差し指に、ぬちゃりとクリームを絡めつける。

 

『・・・?』

 

その様子を訝しげに見ていたコックが、声をかけようと姿勢を低くしたその時。

白いクリームがぺちゃりと、鼻先にくっつけられた。

硬めに泡立てられたクリームが、まるでクリスマスのオーナメントのように、鼻先にちょんと飾り付けられる。

 

驚いたサンジが目を見開いたのと、それが剣士のざらついた舌でペロリと舐め取られたのは、ほとんど同じタイミングだった。

 

「・・・なんだ、甘くねぇな。」

 

いたずらっぽく笑ったマリモが、その太い腕を白く細い首にまわしてサンジを床に引っ張り下ろす。

慌てたコックは床に掌をつきながら、マリモのゆるく組まれた胡座の上にとすりとうつぶせに落下した。

 

顔を真っ赤にしながら抵抗するコックを、ぐいと背中から押さえつけた剣士は、二本の指でもう少し多めにクリームを絡め取る。さきほど舌先で味わった形のいい鼻先に再度塗りたくると、今度はガジガジと噛み付いた。

 

「あい、てててて。おい、や、やめろよっ、クソ野獣!」

「・・・甘くねぇのな。このクリーム。」

「あぁ?あ~・・・てめぇが気ぃ散らすから、砂糖入れ忘れちまった。」

「ふーん。・・・俺がいると、そんなに迷惑か?」

「そうじゃねぇよ!そうじゃ、なくて、・・・気になんだろうがよ、てめぇがいると!」

「へぇ。気になんのかよ。」

「なるだろそりゃあ!惚れたヤ・・・・・・ッ、!!!」

 

「惚れたヤツが、なんだって?」

 

剣士はさらに意地悪な声色で囁くと、自身の膝に突っ伏していたコックを裏返しにする。

あられもなく仰向けになってもなお、目一杯の力強さで睨みつけるコックの、白いクリームの垂れた頬にそっと触れる。反射的にふるりと目を瞑ったコックの、黒い布生地に包まれた華奢な腰が、ビクリと小さく跳ねる。

 

その様子をまじまじと見つめた剣士は、バラバラと額に散らばる金色の前髪を、愛おしそうにかき分けた。

そして、それまでとは打って変わった優しい表情でふわりと微笑むと、咥え煙草を取り上げてから、深い口づけを唇に落とす。

 

「ふ、ぁ・・・ッ」

 

サンジの唇から、押し殺した熱い吐息が漏れる。

 

あんなに真っ赤な顔で抵抗していたのに、苦い口内を弄るざらついた舌に、コックのそれはしっかり絡みついてくる。上あごも歯の裏側も舌の根も、ひとつひとつを確かめるようにゆっくりと撫で回すと、それに応えるかのように、コックの吐息がいっそう荒くなった。

 

 

剣士は、無造作に転がるシルバーのボールを片手で引き寄せる。

そして真っ白いクリームを指で絡め取ると、コックの唇にゆっくりと沿わせた。

優しく触れる指先に、ピクっと微かな震えが伝わる。意味ありげな反応を黙って確認した剣士は、その決して甘くない泡立ちを、コックの真っ赤な唇と一緒にねっとりと味わう。

 

互いの唾液が混ざるぴちゃぴちゃという音と、時折抑えきれずに漏れ出す甘い母音が、昼間のキッチンに静かに響いて溶けていく。

 

「アホコック・・・、ちゃんと、感じてんじゃねぇか・・・。」

「う、うるせ・・、アっ、ふ、・・・・・も、う・・・、黙ってやってろ・・・ッ」

 

溶けたクリームで唾液は白く糸を引き、それがいつもに増して淫靡にうつった。

剣士が自身の口周りについたクリームをペロリと舐め取ると、無意識なのかコックの喉がごくりと音を立てる。

 

 

 

-------

 

 

 

「サンジ・・・声、出すなよ?」

耳元で低くこだました声に、コックの熱いため息が重なる。

相変わらず感度のいい躰と、それを隠そうと手の甲を噛むクセが、剣士の欲情を逆にチリチリとそそっている。

 

見上げる目は涙でうるみ、上気した頬がどこか愛らしい。

 

たまらず剣士は、膝の上にしどけなく乗っかっていたコックを、床に引きずり下ろして押さえ付ける。

一応の抵抗を見せた両の手をバンザイの形に固定すると、その細い腰に、どさりと馬乗りに覆いかぶさった。

 

「ッおい!・・ってめ、キッチンでなにや、ッ・・!ぅんっ」

体勢を変えられ、いったん我に返ったサンジの弱い抗議の言葉を唇で遮り、そのまま耳と首筋にも順番に口づけを堕とす。容易にトロトロと力の抜けた躰は、剣士の熱い掌に、ピクリピクリと反応を返す。

 

「や、ッあ、・・っ!」

「声、出すなって・・・、言ったろ?」

いつの間にかはだけられた胸に、ひやりとした感触を得て、サンジはぎくりとそこを凝視する。

体温で温まった白いクリームが、お腹からトロリと、脇腹を伝って床に落ちていくところだった。

 

「てめ、クソマリモ!!食べ物を粗末にすんじゃ、ッあ・・・、っん、」

 

コックの薄紅色に染まる突起が、剣士の熱い口内にいきなり含まれた。

舌先でコロコロと転がすと、そこは徐々に硬度をあげていく。

血流が下半身に集まり始めたのを自覚して、サンジはいやいやと首を振る。腰の上に偉そうに乗っかる剣士にも当然、この変化は伝わっているのだろう。羞恥の涙がふるふると目尻に溜まる。

 

口づけを解くときのちゅぱっという音が、午後のキッチンにいやらしく響く。

 

「ばか、・・おしおき、だ。」

 

お腹の上でとろける白いクリームが、自身の体液を想像させて、瞬間身震いが起こる。

つうと垂れ落ちる雫をいやに丁寧に舐めとるマリモの腰が、時折意味深にサンジの腰に堕とされる。

美味しそうに体中を這い回る舌は、赤くて熱くてザラザラしていて、それが薄紅色の突起に触れるたびに、思わず小さな嬌声が漏れ出てしまう。

 

―・・・クソ。躰が勝手に反応しやがる。

 

こいつに感じさせられていることが、こんなにも悔しいのに。

 

 

いつの間にかサンジは、緑色の芝生頭を、がしっと強く掴んでしまっている。

 

 

込められた力の加減で、それが「もっと」の合図だと理解したマリモは、じりじりとコックのズボンに手をかけた。

カチャカチャという金属音とともにベルトをはずすと、窮屈になった前を片手で器用にゆるめていく。

 

「あ、っも、ゾロ・・・ッ、」

 

物欲しそうな顔で懇願するコックに、ニヤリと笑った剣士は体中に口づけを堕とし続けるばかりで、なかなか先へと進もうとしなかった。

 

耐え切れず自身の掌をその熱い塊にかけようとしたコックを、剣士がさっと制止する。

 

「おいアホコック、自分でやっちゃあ、・・・おしおきに、ならねぇじゃねぇか。」

「ん、・・・ッ、も、ゾ、・・・ロ、・・ッ」

「・・・なんだ?」

「は、ッ・・無理、も、無理・・・っ、」

「どうして欲しいんだ?」

「て、・・・欲し・・・っ」    

「あぁ?」

「も、・・っんん、・・ッ」

「・・・言えよ。ちゃんと。そしたら、・・・やってやるよ。」

 

「も・・・触って、欲し・・ゾロ・・・あんんッ!」

 

喉の奥から搾り出された声を聴き終わらないうちに、コックの熱い塊は、剣士の柔らかい口内につるりと吸い込まれた。

焦らされた挙句のあまりに恍惚な快感に、いっきに意識が引っ張り上げられそうになる。

 

『うぁ、だめだだめだ、まだイっちゃいけねぇ、・・・!』

 

なんとか理性を保とうと耐えるほど、中心に集まった血流が奥の方で沸き立つのを感じる。

下半身から響くじゅぽじゅぽという卑猥な音に、ふたりの汗の匂いが混ざる。

剣を振るうときの野獣の姿からは想像できないほどの、匂い立つ色香で迎え入れられたその柔らかい中に、サンジは気を抜くと全てをぶちまけてしまいそうだった。

 

たっぷりと乗せられた生クリームが、溶けてベタベタと体を汚している。

 

「ゾ、ロ・・・も、・・しつけぇ・・・ッ!」

「やれっつったのは、てめぇだろうがサンジ。」

「ん、ん、あァ、・・・っやばい、ッ」

「ばか、感じすぎだ・・ッ」

「あ、ふ・・・んっ、も、むり・・っイきそ・・・!」

「・・・まだだ。」

 

低い声でそう言い放つと剣士は、コックの中心をいたぶるのを突然にやめた。

絶頂の一歩手前で放し飼いにされ、ひくひくと蠢く中心をどうにもできないまま、切なく涙をにじませるコックの躰を、上から見下ろす。コックははぁはぁと、辛そうに熱い息を吐き出している。

 

その様子をしばらく観察していた剣士は、一瞬の間があったあとに、その躰をくるりと裏側にひっくり返した。

 

「あ?てめ、なにす・・・ッひぁ!!!!」

 

冷たい感触が、いきなり後孔を襲った。

驚きで固く閉じた臀部の山なりを無理矢理にこじあけ、ぴちゃぴちゃと音を立てて、マリモがそれを、舐め始める。

 

こいつ、クリームを・・・っ!

 

「ん、ッは・・・っな、あ・・ゾロ、・・・っう!」

熱い舌先が、サンジの後ろをチロチロと責め立てる。

陰部に与えられていた上り詰めるような甘い愉楽とはまた異なった、直接的で痺れる快感を得て、下腹部にぐっと力が入る。サンジは知らず知らずのうちに、腰をそらせる。

 

自分の泡立てた生クリームが、自分を卑しめるために使われていると考えるだけで、剣士の行為に自ら積極的に乗ってしまったような感じがして、どうにもサンジの羞恥を煽った。

だいたい、今日は生クリームを使う予定もなかったのだ。俺は、自分に使われる“玩具”を、自ら進んでマリモに提供したことになるのか・・・?

 

「おい、コック・・・っ」

切羽詰ったもどかしい声が、唾液とクリームを混ぜくる音とともに、後ろから投げかけられる。その指先はくるくると、何かを求めて後孔の周囲を行き来する。声を抑えて荒い息をしていたサンジは、後ろに向かって弱々しく目線を送り、肯定の気配を投げかける。

 

了承の空気を読み取った剣士は、丹念に鍛え上げられたその太くてごつい指を、次の刺激を期待してひくついているそこに、ぐぐぐと押し入れる。

ベタベタと体中に塗りたくられた生クリームが、きつく締まった奥をいくらか滑らかにしだいていく。

 

「・・ッつ、い、・・てぇな・・・っアぁっんんッ」

 

何度経験しても慣れない異物感と、その負担を少なくしようと気遣う慎重な指運びに気を取られていると、最奥に到達する前の部分でうっかり、甘い音を漏らしてしまった。

 

「・・・ここ、か?」

「は、んッ・・!く、・・っ」

 

必死に耐えるサンジの表情を見遣り、二本目の指腹を、ピンポイントでその部分にこすりつける。

たまらない悦楽に腰が無意識に前後し、なかば自動的に出し入れされる太い指を、自ら何度もくわえ込む。

赤黒く染めあがった熱い塊の先から、早まった体液がぽたりと床を汚す。

 

『やべぇ、もう、・・・っ!!』

 

サンジが自身の限界を思ったのと、剣士のいきり立ったそれが突然に躰を貫いたのとは、ほぼ同時だった。

 

「ッ、あぁァんん!や、ゾ、・・ゾロっ、も、だめ・・・イ、・・イ、く、イっちま、・・ッ!」

 

「サンジ・・・っ、イけ・・っ!」

 

サンジの敏感な耳に、剣士の低い呻き声が届いた次の瞬間、ふたりは共に意識を放った。

 

 

 

-------

 

 

 

いつもより少し冷えすぎたゼリーを、いったん室温に触れさせる。固くなった甘いソースは、あたたまることで少し緩めに戻る。ナミさんは、キンキンに冷えたゼリーよりも、このくらいの冷たさがお気に入りだ。

 

 

時刻は、午後三時三十五分。

 

いつもより少し遅くなったおやつの時間に、船員たちの待ちわびる声が聞こえ始める。

 

「・・・おいクソマリモ!床拭くのぐらい手伝いやがれ!・・・このベタベタ、てめぇのせいだろうが!!」

「あぁ?」

マリモは床にあぐらをかいたまま、コックを見上げている。

 

 

サンジの中で果てたあともしばらく、中にとどまっていたマリモは、意識がこちらに戻ってくると愛おしそうに、後ろからぎゅうとサンジを抱きしめた。

薄ぼんやりとその様子を感じていたコックは、剣士が首筋についた生クリームをペロリとなめ、口づけを堕とし、甘く耳をかじり、そのまま二発目に突入しようと動き始めようとしたところで完全に目覚めて、本気の蹴り技を繰り出したのだった。

 

「・・・んだよその目は!一発じゃ物足りなかったかよ!」

「・・・ふん。」

 

仏頂面で顔を背けた剣士の反抗的な態度に、カチンときたサンジが遠慮なく言葉を重ねる。

「だいたい!てめぇは!喰いものを粗末にすんじゃねぇよ!!生クリームなくなっちまったろうが!」

 

「・・・いいじゃねぇか。」

頭上から降ってくる罵声も全く気にせず、剣士はニヤリとコックを見竦める。

「今日のおやつ、使わねぇんだろう?・・・これ。」

指先についたクリームをちゅぱっと舐める口元に、チラリと淫らな香りがかすめ、サンジはぎくりとする。

 

気づいていないかと、思っていた・・・。

 

「それに。」

 

剣士はよいしょと立ち上がると、つかつかとコックの元に寄っていき、その耳元に極上のデザートを届ける。

 

「なかなかうまかったぜ、・・・てめェもな。」

 

 

 

――・・・この約五秒後に、耳朶まで真っ赤に染まったコックの美しい足技が、キッチンのドアを蹴破り空まで舞ったことは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

( 完 ― ごちそうさまでした ― ) 

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