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Five ZS Stories

※ ゾロサンオフ会のメンバーに配ったコピー本です。本当はイラストが入っていますが、お話だけ載せています。

 

 

海の底 ( Illusted by へーた )

 

 

夜に溶ける吐息の温度。

熱に浮かされた金の瞳。

微かに触れ合う三連のピアスが、チリチリと薄い鼓膜を撫ぜる。

『なん、で――』

言葉はいつも、まっすぐで、揺るぎなくて、苦おしいほどに残酷だ。

『俺、なんか……』

ハッと短く息を吐いて僅かな隙間に熱を逃がす。

絡み合った視線の奥、暗い底にはなにも見えない。

それはまるで海の底のようだ。

真っ暗闇の遠い記憶。

なにも見えない。

 

なにも、なにも、なにも――――

 

「……馬鹿野郎」

ぐしゃり、と髪を撫ぜる大きな掌。

ゴツゴツして、分厚くて、笑えるほどに高い体温。

「俺は、ここにいるだろうが」

細い空気を吸い込む唇をなだめるように甘く吸う。

柔らかな熱が赤を包めば全身がとろりと水に還る。

なにも見えない。なにも感じない。

なにも、なにも、なにも、

「愛してるって、言ってみろよ、クソコック」

 

この暗い海の底で、ゾロ以外、なにも――――

 

 

 

Kiss in the blue. ( Illusted by 綴屋 廻 )

 

 

コポ、コポ…… コポ、コポ……

淡いブルーの水の底に、金の宝石が沈んでいる。

さらり、揺れた美しい光が穏やかな熱に包まれていく。

コポ、コポ…… コポ、コポ……

ひとつに溶け合う静かな温度が水の底に反射する。

それはまるで幸せを願うみたいに、そっと、ずっと、穏やかにたゆたう。

 

黒い影を落として泳ぐ魚の背びれがひるがえる。

美しいあぶくが点につらなり真珠のように水中を漂う。

目を閉じて、唇を開いて、受け入れた熱にそっと歯を立てる。

耳に届く衣擦れの音は、煙草を手放す耳慣れたサイン。

「……なぁ」

キスの合間に紡ぐ言葉にもどかしそうに喉を鳴らす。

獣みたいだと笑う目尻にいじわるなキスが小さく落ちる。

いつだって言いたいことは全部、青に飲み込まれてしまうのだ。

深くて、怖くて、美しい色。

いじわるで、鋭利で、甘い色。

「……なぁ」

見上げる視線に言葉を乗せ、青がそっと瞳を閉じる。

たった、それだけ。

コポ、コポ…… コポ、コポ……

なぁ、ゾロ。

欲しい、――――もっと。

 

 

 

神さまの子守唄 ( Illusted by ごっつ )

 

 

久しぶりの夜ふかしだった。

 

『さ、あとは好きにしていいぜ、アホマリモ』

十日分の食料とクルーの好物を買い込んだ帰り道。

ちょっとひと休みのつもりで飛び込んだ安宿で、サンジはベッドに押し付けられた。

シャワーを浴びるつもりで脱ぎかけたジャケットが後ろから素早く脱がされる。

ぎょっとして振り返る暇もないまま、柔らかなベッドに体が沈んだ。

 

「ん、んん……」

ひどくされた覚えはない。記憶は確かに優しくて、暖かくて、くすぐったい。

あのとき、しつこいほどに解された挙句、最後をなんと言ってせがんだか。

朝の光がまぶたに落ちて、サンジはぎゅうっと目をつむった。

昨晩の己が脳裏をかすめ、知らず眉間にしわが寄る。

途中で煽った酒が抜けなかった。まだ太陽は角度が浅い。

――ぐー……ごー……

『……?』

気だるさに体を預けながらサンジは耳を傾けた。

聴き慣れたメロディは主題を繰り返し、サンジの鼓膜をそっと揺らす。

高く、高く、低く。 高く、高く、低く。

明るい光が差し込んで覚えのある温度にたゆたう。

安らかなメロディは強く優しく、祈りのように響いている。

『……神様みたいだ、まるで』

――ぐー……ごー……

おとぎ話のように繰り返す、穏やかな寝息を子守唄にして。

あと少しだけ、ほんの少しだけと、サンジはまどろみに落ちていく。

 

今日はゆっくり朝寝坊でもしようか。

よぎった思いに頬を緩める。

なにげない日常の狭間には、幸せの予感が小さく灯った。

 

 

 

Heart beat ( Illuste by かまのぎ )

 

 

離れる、温度が、遠く、霞んで、見えなくなって、そっと消える。

泡のような感傷は煙に溶けて空に広がる。

あと1センチ――行き場をなくした指先はためらいがちに金糸を梳く。

曖昧な想いはとらえどころもなく、指の隙間から零れ落ちる。

 

どうしてだろう、いつもの喧嘩だ。

それなのにこんなにも。

――こんなにも、痛い。

 

はらりと落ちる金の糸。

背景の青。海底の黒。

それはまるですべてを飲み込むような……

 

「――行くな、コック」

いきなり掴まれた左手がヒリヒリと甘やかな痛みを告げる。

重なる体温が熱を上げてそっと、ふたりを包み込む。

空を渡る鮮やかな潮風。

永遠の一瞬。

「好きだって、言ってくれ」

「……死んでもごめんだ」

海からの風にページがめくれ、止まった時は動き出す。

それはまるで生まれたての暖かな心臓の鼓動のようだった。

 

 

 

アップルパイのうた ( Illuste by 山羊 )

 

寝ぼけまなこの獣の尻を思い切り蹴飛ばし街に出た。

何度も迷子になりかける背中に溜め息をついて文句を垂れる。

酒だ飯だと煩い口には真っ赤なリンゴを押し込んだ。

「……てめぇの奴のほうがいい」

「あ?」

「アップルパイ」

もぐもぐと咀嚼しながらなんでもないように言葉を零す。

 

長い航海に痛みかけたリンゴを、ブランデー漬けにしてパイで包んだ。

初夏の風がふわりと吹いて香ばしい香りを甲板に広げていた。

ゾロでも食べられるようにと、甘さを抑えたシナモンシュガー。

これならワインに合うはずだからと珍しく洋酒も注いでやった。

「また喰いてぇな」

寝言のようにぼそりとつぶやき大きなあくびをうーんと、ひとつ。

流れる煙に想いを乗せてサンジはそっと後ろに続く。

 

日常のように平然と、当たり前の風景として。

太陽が昇って海が笑い、雲に隠れて月が眠るように。

ただ隣に居ることがこんなにも暖かいなんてどうしてだろう。

 

「おいゾロ」

「あ?」

「…………」

なんでもねぇよ。

ゾロはどうでもいいという風に、背伸びをして海へと向かう。

長く続く一本道。水平線へと歩く背中。

ずっと伸びる柔らかな影が交わって、ふたりを優しく包んでいる。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

勝負したい 負かしたい 喧嘩して傷つけたい

爪を立てて噛み付いて、とろけるようなキスがしたい

守りたい 抱きしめたい ひだまりのなかで眠りたい

はちみつのような満月の夜 暗闇のなかにまどろむ瞳

 

あぁ 腹へった

 

 

 

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